「時の流れとともに変わりゆく2人」しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
時の流れとともに変わりゆく2人
穏やかで落ち着いた映画を観たくなり、本作を鑑賞。予想以上に静かな映画でした。
家族に恵まれず、居場所を作るために家政婦になったモードと、天涯孤独の労働者エベレットの2人の出会いから晩年までを描いておりました。
初期のころのモードとエベレットは互いに対人スキルが低くてうまくいかず、エベレットにおいては粗暴なので、微笑ましく見守るような気持ちにはなれず結構不快でした。意地悪な見方をすれば、孤独で孤立した2人が他に代わりがいないので一緒に居続けた、と言えなくもないでしょう。
「このカップルがどうしたら変化していくのかな?」なんて思って観ておりましたが、ビビッドな出来事は絵が認められたことぐらい。とはいえ2人は少しずつ変化していったので、結局変化をもたらしたのは時間だったようです。
その時間を、この映画では雄大に変わりゆく自然や少しずつ彩られていく家の中のアートなどで、ゆっくりじっくり表現しているように感じました。だから変化にも説得力があるように思えました。音楽も素朴ながらも繊細で美しく、丁寧に映画を演出しておりました。
そして、サリー・ホーキンスとイーサン・ホークの演技も、時の流れを無理なく感じさせるものであり、とても素晴らしかったです。
晩年になると、エベレットもついに言葉で思いやれるようになったので、やっと2人の関係が素敵だな、と思えるようになりました。終幕近くになると、本当にお互いかけがえのない存在だったんだなと実感でき、かなり胸に迫ってきたのも事実です。
そう思えたは、やはり悠久の時の流れがとても丁寧に描かれており、説得力を持っていたためだと考えられます。
心理描写においては、さらに繊細だったように感じました。特にエベレットの心理描写は一見少ないように見えて丁寧だったと思えます。
マウンティングしないと安心できない彼が、モードの絵が売れはじめて注目されるようになった時、「普通の夫婦とは逆で夫が妻を支えている」とテレビで語っていました。しかし、その時の彼の姿は、家の中でスポットが当たって生き生きしたモードの脇で、暗がりの中で寄る辺なく椅子に座っており、表情もよくわからず、どこか不穏な雰囲気がありました。
その後「静かな生活ができない」的な言葉を吐いてモードと一時決裂する動きが見られため、彼は長年
『妻を愛して支えているし支えたいけど、それだと同時に男性的なプライドが傷つき続ける』
といった葛藤を抱え続けたことが伝わりました。最晩年でやっと折り合えた印象です。だから言葉で思いやれるようになった、とも言えそうですね。そんなエベレットの孤独な自分との戦いが意外にも強く心に残っています。
とても素敵な映画でしたが、展開が本当に少なく、ちょっぴり退屈したのも事実。
また、エンドロール前に実物のモード・ルイスとエベレットの映像が流れたのですが、劇中の暗いモードとは違い、キラキラと明るく生命力が伝わってくるような印象を受けました。劇中の彼女は胸に秘めたものを絵で表現している様子でしたが、本物はあの絵のままの、エネルギッシュな人だったのでは、本作ではかなり暗めの夫婦ですが、本物の方はもっとはっちゃけた感じなのかもしれないですね。