「大衆を置いてきぼりの内輪映画」夜は短し歩けよ乙女 civichanさんの映画レビュー(感想・評価)
大衆を置いてきぼりの内輪映画
私は原作が、森見さんが、四畳半が、アジカンが、中村さんが大好きな一ファンです。この気合いの入った映画を楽しみに楽しみにしていました。
この映画はきっと、原作を読みに読み込んだ愛の溢れた方々がつくったのでしょう。愛がひしひしと伝わり、ファンが涙を流さずにはいられない再現度でした。原作が一気になだれ込んできたようです。
でも、それがいけなかったです。原作を余すことなく詰め込んだ内容は、薄っぺらくて流れ作業を見てるようでした。映画の時間じゃとても足りない。原作を読んだ方は、本のダイジェストのように感じられたのではないでしょうか。
春夏秋冬を辿る中で黒髪の乙女を追いかけた時間は、もっといじらしく、焦燥にかられた想い焦がれる時間だったはずです。彼女を眺めて追った春、尽くした夏、近づいた秋、孤独に伏せた冬、全部愛しく濃密な外堀を固める作業だったはず。
この映画じゃ、一目惚れの一夜です。彼女の後頭部なんか焼けるほど見てないだろってかんじです。
作画が独特な分、細かい描写や雰囲気はもっと大切にしてほしかった。濃密な夜の街のはずがガラガラの流行らないフードコートみたいな飲み屋。サイダーが沁みる暑い夏のはずが寒々しく風邪をこじらせそうな古本市。安っぽく青春にまみれるはずの学園祭はなぜか図書館警察の名前が出るハイテク要塞。寒々しい風邪の街はホカホカの優しい卵酒とのギャップをもっと伝えられたはず。
四畳半からつながる登場人物や設定は完全に製作の御都合主義。樋口さんや羽貫さん、小津など、旧作の愛が侵食し過ぎ。
原作本片手に書いたであろうシナリオは、映像でこそ出せる突き抜けた良さ出せるはずはない。
結局この作品は、様々な外的影響を受けて寄せ集めた内輪映画です。色んなことを無視できなくなってすべて無理矢理詰め込んで、ワケわかんなくなっちゃった感じです。(だって主役が星野源なのに主題歌がアジカンって、ファンじゃなかったら意味わかんないでしょ。とか)四畳半も原作も監督の好みも全部入れ込みたい制作のエゴは、世界観を知らない大衆を置いてきぼりにするでしょう。そして私みたいなファンも、薄っぺらな内容に辟易するでしょう。
愛が溢れるほど、残念です。
映像化されてとても嬉しかったです。大人の事情も様々あった中でやりたいことを詰め込んで作られたのでしょう。よくやったと感心します。次があるならば、また深夜アニメで濃密な世界観を展開していただきたいです。
ちなみに公開日に見なかった言い訳をしますと、映画前売りを買って、楽しみすぎて本を読み返したら満足しちゃったからです。公開が明後日までだと知り、急いで観に行った次第です。私も原作主義でした。