「憎しみに囚われるな、誇りを見失うな」猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー) 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
憎しみに囚われるな、誇りを見失うな
知能を持ったエイプたちの反乱を描いた『~創世記』、エイプたちと人間たちの開戦前夜『~新世紀』に続く、リブート版『猿の惑星』完結編。
前2作が非常に面白かったので、今回も期待大!
何だか日米共に新シリーズで一番低い成績のようだが、いやいや、今回も面白かった! このシリーズは裏切らない!
監督は引き続き、マット・リーヴス。重厚な人間ドラマのような演出は健在。
スペクタクルな醍醐味も充分。
シリアスな戦争映画のような作風。
今回もエイプたちの側から描かれる故、手話など台詞は少ないが、じっくり一挙一動に引き込まれる。
一触即発の対立、クライマックスの“大脱走”など緊迫感もたっぷり。
今回も素晴らしい見応え!
さながら劇中のエイプたちの進化のように、新作の度に技術はさらに進歩していく。
今回特筆すべきは、雪。雪のシーンが多く、体毛に付いた粉雪の細かさなどがスゲェ…!
堂々たるシーザーの存在感。
言うまでもなく、“主演アンディ・サーキス”の名演。
ドアップの苦渋に満ちた表情が絶品!
シリーズももう3作も見て、パフォーマンス・キャプチャーの撮影技術など重々承知してる筈なのに、本当はこれは全て本物で、ハリウッドには名演技をする本物の猿たちが…なんてアホみたいな考えが頭を過ずにはいられないほど。
人間側の新キャラに、口の利けない少女、ノバ。彼女とエイプたちの交流に癒される。(ただ、もうちょっとキャラを立たせて欲しかった)
エイプ側の新キャラ、バッド・エイプはこのシリーズでは初めてと言ってもいいくらいユーモラス。張り詰めた緊迫感の中で笑いを提供する。
前2作と同じ4・5採点でも良かったが、4採点にしたのは、今回人間側のドラマが物足りなかったから。
シーザーの前に立ち塞がる大佐が、単なる敵役としか描かれてない気がした。
前作『新世紀』のゲーリー・オールドマンが演じた役柄にはエイプたちを憎む理由がちゃんとあり、ジェイソン・クラーク演じる中立の立場の人間も居て、エイプ側人間側、どちらも考えさせられるものがあった。
勿論ウディ・ハレルソンの凶演は見事だし、彼にも彼なりのエイプたちを根絶やしにする理由はあるにはあるが…、はっきり言ってサイコ野郎。考えさせられるものではなかった。
最も、狂人の考えなんて理解出来るものではないし、大佐の野蛮な行為は大佐の最も恐れる人間の○○だとすれば、皮肉でもある。
また、冒頭、シーザーに解放された軍人が何か物語に絡むかと思ったら…。
シーザーは知能が発達した瞬間から、何と苦悩や葛藤を背負った存在か。
人間たちとの関係、対立、仲間のエイプたちの平穏、反逆…。
今回シーザーを、ある悲劇が見舞う。
その途端、シーザーは我を見失い、憎しみに囚われる。その憎悪の表情!
あの慈愛に満ちたシーザーが、勿論仕方なくだが、あるシーンでは人間を、あるシーンではエイプを殺める。まさかと思った。
モーリスは「まるでコバのようだ」と指摘する。
実際、シーザーを苦しめるコバの悪夢…。
憎しみは、容易く選択の淵に立たす。
そのまま憎悪の渦の中へ堕ちるか、踏み留まるか。
憎しみと苦難の果てに辿り着いたラストのシーザーの姿に、何より大切なものと決して捨てなかった誇りを見た。
欲を言うと、“猿の惑星”となるまでもう一幕欲しい。
が、さすがに無理か…(^^;