「とらえきれない魅力」エル ELLE REXさんの映画レビュー(感想・評価)
とらえきれない魅力
一応誤解をといておくと、氷の微笑のよう な、謎を最後まで引っ張る話ではない。
主人公ミシェルに特に隠された背景というの もない。 いきなりレイプ場面から始まるが、その犯人との異常な関係性を飄々と受け止めている、 彼女の変容性というか一種のおおらかさが、見ている者を困惑させ、畏怖させるのだ。
ミシェルはサイコパスでもなければ、異常な マゾでもない。
だから彼女の中に積極的な被虐性欲というの は認められないけれど、状況に流されている ようでいて、それを楽しんでいる節はある。
彼女の相手が男だろうと女だろうと、彼女に対して何かしてやりたい、コントロールしたい、という欲求を沸き立たせる存在なんだけれども、それを敢えて放置している。
そしてミシェルは、最終的には邪魔になった相手を、自分の手を汚さず排除することやってのける。
結局、大量殺人を犯した父親との間に謎が隠されていたわけではないが、彼女が父親の中の何かを触発したに違いない、という確信を十分抱かせるほど魅力的なのだ、ミシェルは。
男たちは力づくでミシェルをコントロールしているようで、結局は弄ばれているのであ る。
一方的な快楽だけを求める男たちより、女同士の方がいい、と匂わせるラストも痛快。
レイプ犯の妻がミシェルにお礼を言う場面も、異常で好き(笑)
旦那が大変なことをしでかしてすみませんでもなく、不倫していたことをなじるでもない。とんでもない性癖の旦那の相手をしてくれてありがとう、ですもんね。
私だってあんな旦那がいたら、身も心も疲弊する。あのときのミシェルの目は、彼女にどことなく同情的だった。
御年64歳のイザベル・ユペールのたおやかな 上品さがなければ、下品な映画になっていた に違いない。 当初はアメリカでの撮影を試みたと言うが、【氷の微笑】のシャロン・ストーンのように、ギラギラと外に発散されるエロティズムはこの映画には相応しくない。
このヒロインは少し【ゴーン・ガール】を想 起させるが、毒のある軽やかなユーモアは ちょっとアメリカ人キャストでは想像しがた い。やはりフランスで撮って正解。