「ヴァーホーヴェン監督による女性の業の肯定」エル ELLE りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
ヴァーホーヴェン監督による女性の業の肯定
ゲーム制作会社社長のミシェル(イザベル・ユペール)。
帰宅したところを目出し帽を被った男にレイプされてしまう。
しかし、彼女はその後、平然とデリバリーサービスを注文し、息子の訪問を受け入れる・・・
といったところから始まる物語で、彼女がレイプ事件を警察に通報しないのは、39年前に父親が起こした大量殺人事件が背景にあることが明かされる。
なので、彼女が事件を明るみに出さず、独自に犯人を捜していくのは納得がいく。
これで犯人を突き止めて自身で復讐するだけならば、まぁ、フツーの映画になるのだが、ポール・ヴァーホーヴェン監督をしているだけあって、そんな凡百な映画になどならない。
レイプされた後も、自身の欲情を抑えられない(とはいえ、通常は抑えているのだが)彼女は、隣家を双眼鏡で覗き込み、その家の主人の姿をみながら自慰にふける。
さらに、犯人を突き止めた後も、犯人とともに共犯者めいた背徳の関係を持つ(これは、結末への伏線ととることもできるが、そんな理性的な関係にはみえない)。
こういう彼女の姿は、空恐ろしい気もするが、なんだか突き抜けていて、業を肯定しているようで潔い。
そう「女性の業の肯定」。
業を、決して否定したりしない、ポール・ヴァーホーヴェン。
それに対して、今回の事件も、39年前の事件も、背景には宗教が絡んでいる(絡んでいるといっても、今回の事件は表面には現れてこないのだが)。
どちらの事件にも熱心な信者がいるが、神は救ってはくれない。
どちらかといえば、放ったらかしにしているだけである。
救ったのは、人間自身である。
そうみれば、この映画、女性の業の肯定と神の否定というベルイマン的な重々しい主題が隠れているようだが、それは考えすぎか、それとも的を射ているのか。
いずれにせよ、一筋縄ではいかないポール・ヴァーホーヴェンであった。
それにしても、登場する男はみんな下衆野郎ばかりであるが、別に「男性の業」は否定していないだろう。
単に、結果的に、ヒドイことになるというだけで・・・