「写真的」マンチェスター・バイ・ザ・シー アキノリダーさんの映画レビュー(感想・評価)
写真的
マンチェスター・バイ・ザ・シーの街を映すカメラの、とにかく美しいショットの連続を、思わず写真として保存してしまいたい欲望に駆られた。それほどに序盤のジョディ・リー・ライプスのカメラは写真的な美的感覚で撮られていると思えた。
ところで、写真とは過去の瞬間を切り取ったもので、そこには断絶があるといってもいいだろう。やがて物語は観客に主人公リーの人生がある出来事によって決定的な断絶がなされたことを告げる。リーの元にある三枚の写真こそがその証左で、マンチェスター・バイ・ザ・シーの街とともに彼は自ら写真の中に閉じ込められている。決して逃れられない過去として。
しかし終盤のあるシーンで止まっていた人生は再び動き出す。この映画におけるケイシー・アフレックの抑制された演技は素晴らしいが、加えてこのシーンのミシェル・ウィリアムズの演技は私たちの心を大きく揺さぶるだろう。
動き出したかに思えたリーだが、この映画は安易なハッピーエンドには着地しない。
「I can’t beat it」
彼の人生はマンチェスター・バイ・ザ・シーの空の色のように曇ったままだ。希望はないかもしれない。ただ絶望ももうない。劇的なショットはもうないかもしれないが、カメラは再び回り始めている。
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