「ロンハーマンなロケーション」マンチェスター・バイ・ザ・シー いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
ロンハーマンなロケーション
舞台そのものが作品名である。そこはおよそ日本人がイメージするおしゃれなアメリカの観光港、日本の葉山が真似をしたくてしたくて堪らない位の風光明媚な港町だ。そんな景勝地である場所に、一人の男が帰ってくるというストーリー。
とにかく今作品監督ケネス・ロナーガンの馬鹿丁寧な程の作品の作り込みが如実に表現され、スクリーンから溢れるほどの想いを切々と吐露していくような展開を追うことになる。思い過ごしかもしれないが、最近の映画作品の中の登場人物達の職業、若しくは仕事の特徴と性格や性質等がマッチしない、若しくは何らかしらの関連性を見いだせない設定が多いと感じる。ステレオタイプかもしれないが、職人だから無口だとかみたいなものだ。主役の男は、マンションの雇われ管理人。手先は器用で仕事は出来るが愛想は悪く、人付き合いは殆ど無い。そういうキャラ設定を丁寧に時間をかけて、その紹介のシーンを冗長かも知れないが映し出していく。多分その丁寧さそのものが今作品の後半への長いフリなんだろう。中盤での火事のシーンでのあのスローモーションの演出と、葬儀曲で有名な『アルビノーニのアダージョ』が切々とその深く傷ついた過去が繰広げられる。そこまでの重厚且つ暗いシーンからの、警察署内で隙を突いて警官から拳銃を奪い自殺しようと試みる緩急は心を強く揺り動かす。あれだけ溜められれば、驚きのシーンとなる演出は心憎い。
この作品のキモは確かに後半の元妻の許しとしかしそれでも自分を責め続けること事から解放されない主人公の街角のシーンなのだろうけど、もう一つの軸である、兄、弟、そして甥という男の系譜が紡ぐ、濃い関係性の方を注目する。街から出て行く直前、車の前で兄に抱きしめられる弟、不覚にも胸を締め付ける苦しさと悲壮さを禁じ得なかった。勿論、原因は自分なのだからとは分かるがその代償が余りにもバランスが悪く、だからこその心理的葛藤は観る者全てを深淵へと沈ませられるのだろう。
結局、主人公はその過去を克服できず、兄からの救いの手であった甥の後見人という立場を退くことになる。残念ながらハッピーエンドではない訳であり、だからこそ今作品の辛さ、哀しさを綺麗に表現してみせた監督及び、主役ケイシー・アフレックのハイレベルな演技が堪能できる内容であると確信する。確かに文句なく、アカデミー主演男優賞及び脚本賞で納得である。