「再生の始まり」マンチェスター・バイ・ザ・シー kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
再生の始まり
とてもリアルで誠実な物語だな、という印象です。
途中に明らかになったリーの重すぎる過失。自分のミスで2人の実子を殺したのだ。しかも若干ラリっていた状態で。
「そんな超ヘヴィな十字架を、しかも事故が起きた街で背負っていくのか!乗り越えられるの?無理では?」と思って観ていたら、リーの乗り越えは描かれず。むしろ安易な着地に持って行かないケネス・ロナーガン監督の誠実な姿勢に少しホッとしました。
とはいえ、リーの変化はバッチリ描かれていて、観応え充分。
特に印象に残るのは、本作のハイライトであろう「乗り越えられないんだ」という、リーの独白シーン。
それまでリーの時間は動かなかった。火事の後の警察署での自殺は未遂に終わったが、リーの心はあの時死んでいた。
しかし、リーはその言葉を語れたことで、乗り越えられないことを認めることができた。生ける屍だったリーが、少しだけ蘇った。今までは辛すぎる傷と向かい合えなかったが、この一言を語れたことで、ついに向かい合えて、一歩踏み出せた。
そして、それまで紡がれてきたリーや周囲の人たちの心理描写がとても丁寧だったからこそ、その一言が重くリアルに迫ってきて、心に沁み入る。
その後の船の上で見せる笑顔や、新しい住居にパトリックを呼べる部屋を設置したい、というラストのリーの発言は、前半とはまるで別人。こう考えると、この映画はリーの再生の始まりを描いた物語だった。
リーの心に光が射したこととマンチェスター・バイ・ザ・シーに春がやってきたタイミングを重ね合わせるラストはとても見事で、時がわずかに動き出したんだなぁとしみじみ思い、深く静かに感動しました。
ランディとリーとの邂逅も良かった。ランディも心に蓋してごまかして生きていた。なので、リーとの再会し、思わず気持ちをブチまけてしまったことは、彼女も自分と向かい合うきっかけになったようにも思えました。あの出会いがあってこそ、両者が乗り越えられていないことを意識化出来たのでは?それも含めてリーは街に戻ってきて本当に意味あったな、と感じました。
欠点としては、尺が長いこと。もう少し尺を短くまとめた方がよりグッと迫ってくるようにも思えます。深いけれどもシンプルな話なので、長くする必要はないような。散漫に思えて印象にも残りづらく、本当に惜しいなぁとしみじみ思います。
また、意外なほどにギャグのキレがあり、サンディ絡みの演出は悪意に満ちていて最高でしたね。バンドの痛さがハンパない。サンディ母のアホみたいな感じとかヒドすぎて爆笑。あの親子はきっとその場のノリで作られたキャラだろう。ストーリーとまったく関係ないし。監督は悪ふざけしているとしか思えず、ホント最高!
(尺を短くするならば、真っ先に切られるのはこの辺なんだけど)
ギャグとは言えないけど、パトリックの母親夫妻の気色悪さもいい感じで毒があってシリアスながらも少し笑ってしまった。