マンチェスター・バイ・ザ・シーのレビュー・感想・評価
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悲しみ苦しみはそのまま
毎朝目が覚めてすぐに思い浮かぶ人生の苦しみや悲しみ。それを乗り越える必要はない。目を逸らしたっていい。だってそれらは結局、自分と切り離す事は出来ないのだから。日々心が壊れる寸前のところで持ち堪えいる。だから些細な事で感情は爆発して時に他人を傷つけ、いつまでも自分をも傷つけ続ける。そして時には誰かの言葉で救われる事もある。でもそれは束の間。
だからやっぱり乗り越えられなくてもいい。
この映画はそう語りかけている気がした。
誰にも理解してもらわないでいいという覚悟。
主人公のリーも、甥のパトリックも、いうなればとてつもない悲劇の当事者なのだが、他人の理解や共感を欲していない。わかるよ、辛かったね、なんて言葉をお互いに発することもない。そんな言葉が、自分たちの思いとは関係のないと本能的にわかっているかのごとく。
だから本作は、周囲の善意の人たちとの温度差の物語とも言える。みんなは悲劇に一方的に肩入れし、感傷の一部になりたいと望んでいる節さえある。意地悪な言い方をすれば、リーやパトリックに乗っかって悲劇がもたらすドラマを味わいたいのだ。
そしてその温度差や落差から生じるズレが、随所で笑いを呼び起こす。悲しいシチュエーションであっても可笑しさは伴うことができるし、その逆もまたしかり。悲劇と喜劇が相反するものではないと、凄まじい説得力で伝えてくれる傑作だと思う。
ゆっくりと哀しみを超え、心に灯火をもたらす傑作
冒頭、仏頂面で口下手なケイシー・アフレックを目にした時、これまで幾つもの映画で見慣れてきた、まさしく「彼ならでは」の演技のように思えた。しかし時を重ねるごとに印象は変わっていく。特に中盤の決定的な場面を過ぎると、彼がこれまでと同じように喋り、同じように俯いているだけでもう、涙がこみ上げ胸が締め付けられてたまらなくなる。
本作は二つの言い知れぬ悲劇と、そこからの再生を描く物語。全編にわたって深い悲しみが横たわるが、と同時に、ところどころに密やかなユーモアを忍びこませ、そのトッピングが時に哀しみをより痛切なものとし、また時に咽び泣く魂を微かな光で包み込み優しく昇華させていく。このロナーガン監督によるため息がこぼれるほどのタッチが観る者を引きつけ、我々の目線を叔父と甥、二人の行き着く先の風景にまでじっと付き添わせる。これは哀しみをゆっくりと超えていく映画。そうやって心に灯火をもたらす秀作だ。
見事な構成、ケイシーの繊細な演技
リーが現在体験することと、過去に経験したこと=記憶を交互に描く構成が、驚くほど緻密であると同時に有機的だ。兄の訃報を受け帰郷するリー。提示される過去は、幸福な時期も確かにあったことをうかがわせる。一体どんな転機を経て、感情を殺し他人を拒絶して生きる現在に至ったのか。徐々に明かされる過程がスリリングであり、切なさを否応なくかき立てる。
この映画が改めて認識させるのは、「自我」が記憶の集積にほかならないこと。リーの人生をたどり疑似体験する行為は、観客自身の人生をアップデートするほどの力を秘めている。
結果論ではあるが、リー役がマット・デイモンからケイシー・アフレックに代わったのも成功要因だろう。デイモンの顔立ちや表情は善人、陽気、楽天的、武骨なキャラには向くが、リーの罪悪感、喪失、悔恨、諦念といった複雑な感情は、ケイシーの繊細な演技とニュートラルに整ったルックスでこそ効果的に表現できた。
止まった時間が動き出す瞬間
イギリスのマンチェスターじゃなかった
レンタルビデオ屋の閉店セールで購入したDVDを鑑賞。
なんか聞いたことある、というだけで購入したので、イギリスのマンチェスターのお話かと思っていました。アメリカにこんな地名があるんですね。
不幸な話は沢山ありますが、この映画は自らの過失がそれを招くというところが他とは違いました。
評価をどう付けて良いのか難しいです。
乗り越えられない経験を受け入れること
辛い過去を抱えて生きる主人公から、人と向き合うことの痛みが伝わって来る。元妻が人生を前に進めていた事実がその傷をえぐる。「乗り越えられない」ことをそのまま受け止めること、それでも生きるということ。人生への穏やかな肯定を感じた。
お互いに台詞をカブせまくるあの会話はどうやって作ってるのだろう?
ローカルながらも絵になる景色と独特なテンポが観どころ
第89回アカデミー賞6部門ノミネートで主演男優賞と脚本賞受賞ということでずっと気になっていたのだが、なかなか機会に恵まれず今頃になってやっと鑑賞。
マンチェスター・バイ・ザ・シーがまさかの地名だったとは衝撃の事実(笑)
ローカルながらも絵になる景色を澄んだ映像で包みながら、少しコミカルめいた独特なテンポで淡々と進んでいくあたりは映画としての評価は当然高いだろう。重いテーマを時折不謹慎と感じるほど明るく描く力量は十分脚本賞に値する。
ただし、個人的にはアカデミー男優賞受賞のケイシー・アフレックの演技は正直ピンとこなかった。苦悩が苦悩だけでしか伝わらず、ひたすら重苦しく感じるだけ。兄のベンと比べる訳ではないのだが少々物足りなく、その影響でよく練られたストーリーも深みを感じることができなかった。
良い作品だとは思うのだが、良い視点で観れなかったのはとても残念だ。
クソ映画ではないでしょうか?
自らの過ちを背負い続ける男のささやかな再生を描く感動作
この作品で、ケイシー・アフレックが第89回アカデミー賞主演男優賞を射止めたのは周知のこと。それも納得の絶望の淵に佇む男の感情が抜け落ちた演技に、観客はおのずと映画に引き込まれ、やるせない悲しみに胸を詰まらせることになるだろう。
便利屋の仕事を日々淡々とこなすリーのもとに、ある日一本の電話が入る。兄が亡くなった
ため、リーは避け続けた故郷のマンチェスターに帰ることになる。マンチェスターで過ごす中で、リーの拭い去れない辛い過去が次第に明らかになり、癒えない心の傷は再び開いて血が静かに流れだす。
兄の遺言で甥の後見人になったリーは、同じように愛する人を失った甥と関わるうちに、悲しみとの向き合い方を再構築していく。16歳の甥は父を亡くしたショックを受けながらも、二人の女の子と同時に付き合っていたり、自分の将来をしっかり見据えていたりと、ティーンエイジャーらしい真摯さで生きることに前向きだ。そんな甥と付かず離れず不器用に寄り添うことで、リーの無機的な生活がわずかに変化し始める。
悲愴感漂うリーの姿はかえってユーモアラスで、重いテーマなのに観ている側の気分が暗くならないのは、ケネス・ロナーガン監督(脚本も担当)の手腕に他ならないだろう。冷凍肉についてのやり取りや、元妻に謝罪されただただ困惑する様子も、当人はいたって真面目なのになぜかくすっと笑えてしまう。登場人物の感情を代弁するようなシーンに合った音楽も見事。セリフ以上に多弁で自然に感情移入が出来てしまった。
喪失から再生へ向かう物語はこれまでも多くの映画で語られてきたが、本作では主人公リーの喪失感は決して埋まることはない。嘆くことも許しを求めることも出来ない、自らの過ちを背負い続けるリーの人生が、リアルに描かれているように思えた。それでも終盤では希望の兆しがささやかながらも感じられ、観客自身が救われる思いを抱いてエンディングを迎えられるだろう。
しょっぱなからトイレの気持ち悪いシーンを入れるな
乗り越えられない
当時、映画館で観ました🎬
便利屋として生計を立てているケイシー・アフレック演じるリーが、兄の死をきっかけに故郷へ戻り、残された甥のパトリック(ルーカス・ヘッジズ)の後見人に指定されていたことを知り‥。
序盤でリーは、便利屋として腕は確かなのですが、性格に難があることが示されます。
何故性格がああなのか、中盤では彼が背負っている重すぎる十字架も明かされます。
ラスト近くにミシェル・ウィリアムズ演じるランディと再会し、会話するシーンはお互いの複雑な感情が見事に表現されてると思います。
最後のリーの選択も、精一杯のものだったのではないでしょうか。
この映画でケイシー・アフレックはアカデミー主演男優賞をしましたね。
ミシェルもルーカスも、負けず劣らずの良い演技だったと私は思います🙂
辛いと叫ばなくても背中からにじむ
甥の面倒を見るためとはいえなぜそこまで
帰省したくないのかの理由が徐々に明らかになる。
あまりにも、一人が抱える過去の傷としては
重すぎる。
むしろ良く自殺せずに生きてきたなと思うくらいだ。
父を亡くしたばかりの甥っ子も
人懐っこいタイプでもなく。
そんな二人が果たして近づくのかなあと心配になる。
甥と叔父の距離感がなんとも微妙で、
例えばこれが女同士なら
もっとハグしたり寄り添ったりと
わかりやすいだろうけれども、
どこかテリトリーをけん制し合うような
雰囲気もあるのが面白い。
はっきりとわかりやすくはないけども
空さえ見てないんじゃないかという男が
少しずつ光を見るようになったんだなと
そっと見守る映画だ。
傷をいやしていくのは時間とやはり人なのだな。
人間愛のある作品。
孤独と向き合う自分
賛否あるのは理解できるが、私は好き
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