「月見れば 千々に物こそ悲しけれ わが身一つの 秋にはあらねど。」ムーンライト たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
月見れば 千々に物こそ悲しけれ わが身一つの 秋にはあらねど。
自身のアイデンティティーの在り方に悩む青年、シャロンの半生を少年期、青年期、成人期の3つのパートに分けて描くヒューマン・ドラマ&ラヴ・ストーリー。
少年期のシャロンにとってメンター的な存在であった麻薬ディーラー、フアンを演じたのは『ベンジャミン・バトン』『ハンガー・ゲーム FINAL』のマハーシャラ・アリ。本作でオスカー(助演男優賞)を獲得している。
製作総指揮を務めたのは『セブン』『オーシャンズ』シリーズの、名優にして名プロデューサーのブラッド・ピット。
👑受賞歴👑
・第89回 アカデミー賞…作品賞、脚色賞、助演男優賞の3冠を達成‼️
・第74回 ゴールデングローブ賞…作品賞(ドラマ部門)!
・第42回 ロサンゼルス映画批評家協会賞…作品賞、撮影賞などを受賞❗️
・第12回 オースティン映画批評家協会賞…作品賞を受賞!
・第32回 インディペンデント・スピリット賞…作品賞、脚本賞、ロバート・アルトマン賞(アンサンブル・キャスト賞)などを受賞‼️
LGBTQを扱ったブラック・ムービーかつオスカーの作品賞を獲得しているということから、どうせ重たい映画なんだろうと思ってなかなか食指が動かなかったのだが、いざ鑑賞してみると事前のイメージと大きく違った!
確かに重々しく苦しい作品ではある。
しかし、圧倒的に美しい映像と瑞々しい恋愛描写、そして誰もが身につまされるであろう普遍的な物語がグッと胸に迫ってくる。
映画の細部に渡るまで気が張られており、とにかく上品で美しい。
最高級の絵画を鑑賞しているような気分…😌
黒人の肌は月明かりの下では「ブルー」に見える。
「ブルー」というのがこの映画のキーワード。
憂鬱な気分のことを「ブルー」と言い表すことがあるが、これはもともと黒人奴隷の言葉だったらしい。
雨が降ると過酷な労働から一時的に解放される。しかし、雨が上がり青空が戻れば、また強制労働を課せられる。
だから「憂鬱」のことを「ブルー」というようになったそう。
これはあくまでも一つの説だが、黒人の苦しみを歌い上げるブルース(blues)という音楽ジャンルもあるのだから、やはり「ブルー」と黒人の間には大きな結びつきがあるのだろう。
「ブルー」とは悲惨な黒人社会の比喩である。
しかし、その「ブルー」こそが黒人をより美しいものへと昇華させる。
一寸先も見えない闇夜。そこに射す一筋の月光。その明かりに身を晒すことにより得られる「ブルー」こそが人間の尊厳であり美しさなのである。
外部からの圧力に屈し、逃げ出し、廃屋の中に閉じこもっていてはいつまでも「ブラック」なまま。
だからこそ、「ブラック」の愛称を持つシャロンが月光の下で振り返り「ブルー」に染まるあのラストシーンが胸を打つのである。
ふーん、それじゃ黒人じゃない人間には関係ない映画なのかな?
もちろんそんなことはない。月明かりは白だろうが黄色だろうが茶色だろうが、全ての色を美しく浮かび上がらせてくれる。
黒人映画だとか、LGBTQ映画だとか、そんなものを超越する普遍性がこの映画にはあるし、人種や性的指向を超越する尊さが人間には備わっていることをこの映画は教えてくれる。
美しくあろうとするものは美しいのだ。
この映画はまるで夜の浜辺に打ち寄せる波のよう。
定期的に打ち寄せる波の音は心地よいのだが、ついついウトウトしてしまう…😪
娯楽映画ではないし、基本的には緩やかな速度で進んでゆく作品なのでまぁ退屈だと感じるところもありますね。
あれ、そこは描かずにスルーするんだ!?みたいなところも多く、全13話のTVドラマの総集編みたいだな、と思ったりもした。
今の季節柄もあってか、この映画を鑑賞して大江千里の一首「月見れば 千々に物こそ悲しけれ わが身一つの 秋にはあらねど」が頭に浮かんだ。
1000年以上前の日本人も、現代のアフリカン・アメリカンも、月を見れば同じような思いを抱くんだなぁ、ということがなんとも不思議な気持ちにさせてくれた。
※この映画がR15指定なのが納得いかん。直接的な性描写もほぼないし、暴力描写も薄い。
これこそ小学生や中学生が、講堂で観るべき映画だろ!
最近イジメを苦にした子供による自殺のニュースが目に付き、陰鬱な気持ちにさせられることが多いが、この映画を観ればイジメをしようなんて気持ちもぶっ飛ぶだろうに…。
これはティーンエイジャーこそ観るべき映画だよー🎬
何と知的なレビュー!とても勉強になりました。
個人的にはシャロンのメンター役がマハーシャラアリだったことです。
本当にグリーンブックでの彼は神々しかった。上品で知的な役がとても合いますよね。