「黒人映画のルーティン(?)をことごとくスルーしてる???」ムーンライト さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
黒人映画のルーティン(?)をことごとくスルーしてる???
アカデミー会員は、取り敢えず『プレシャス(2009)』に土下座するべき。
『ムーン・ライト(2016)』
原題 Moonlight
(あらすじ)
学校では陰惨な虐め、貧しく、ジャンキーである母親から育児放棄されているシャロン(青年期:トレバンテ・ローズ)には、ドラッグディーラーのファン(マハーシャラ・アリ)と、そのその妻テレサ(ジャネール・モネイ)、仲良くしてくれる唯一の級友ケヴィン(青年期:アンドレ・ホランド)しかいない。そんな中、シャロンは、自分がケヴィンに抱く感情が、友情とは少し違うことに気付く。
しかし虐めに耐えきれず爆発した怒りは、激しい暴力となっていじめっ子を怪我させることに。少年収容施設へ入り大人になったシャロンに、ケヴィンから電話が入る。
"黒人映画のルーティン(?)をことごとくスルーしてる"と、プロの批評家さんが仰ってるんですが。
どこを、何を、スルーしてるって言うんだろうか。
90年代の
『ポケットいっぱいの涙』
『ボーイズ・オン・ザ・フット』
『ドゥ・ザ・ライト・シング』
『クルックリン』
『クロッカーズ』
あげたら切りがない!って(笑)
今までも、貧しさ、人種を乗り越えて、自分のアイデンティティを確立する映画は、たーくさん作られて来ました。
けれど、アカデミー会員と、プロの批評家さんがスルーして来たんですよ。
2016年のアカデミー賞で、クリス・ロックが何と言ったか知らないんだろうか?
もっと前なら、1989年にキム・ベイシンガーが言ったことを知らないんだろうか?
あ、まさかゲイの部分だけを取り上げて言ってるのだろうか。
貧しさ、人種、ゲイ。
『プレシャス(2009)』 を観たことないんだろうか?
『ゲット・オン・ザ・バス(1996)』を観たことないんだろうか?
アカデミー会員は、作品の善し悪しに関係なく作品を選んでいることが、今回ほど明らかになったのは初めてじゃなかろうか。
白人中流から富裕層向け人種差別映画『パトリオット・デイ』が、高評価なアメリカですからね。
第89回アカデミー賞授賞式で多くのセレブが現大統領の批判をしてても、心の中はどうか分かりません。
って、いう部分を映画『GET OUT』では描いているので、早く日本でも公開してください!!
アメリカ人の友人が「最近の差別主義者は分かりにくくなった。一定レベル以上の教養がある証明が、人種差別しないことだから」と言っていた。
さて、現大統領のお陰で日の目を見たと言っても過言ではない、本作。
内容は、あまり評価できません。
ファンの子供の頃のエピソードに由来する、また本作のテーマである月明かり。
確かに降り注ぐ月明かりのような映像は、切なく、儚く、美しい。
が、シャロンが最初にはっきりと自分の性に目覚める、ビーチのシーン。
寄り添う二人のバックショット、吐息、砂を掴む拳……、などなど。
いつの時代の演出か!?と。
こちらが恥ずかしくなるほどの、古くさいメロドラマ風の演出が多々ある。
大人になり、マッチョで金歯になったシャロンと、ケヴィンの甘く見つめ合うシーン。
ジュークボックスから流れる、センチメンタルな歌声……。
壁に寄りかかったケヴィンが、物憂げにタバコを燻らすシーンとか。
あぁ!『ブエノスアイレス(1997)』だな!って思いました。
そしたらやっぱり、監督がオマージュであるとコメントしてるみたい。
だって、まんまですもの。
しかし『ブエノスアイレス(1997)』は、レスリー・チャンと、トニー・レオンの繊細な演技と、映像作家であるウォン・カーウァイ監督の才能が相まって、芸術作品に仕上がっています。
でも本作は、ただただ幼稚で滑稽なシーンの連続です。
ロマンティックなシーンであればあるほど、失笑してしまう。
そうだなー。
ゲイ・エロティック・アーティスト:田亀源五郎先生が、ブエノスアイレス的なストーリーを描いた。
と、言えば、分かって頂けるだろうか。
PS そもそも、111分の短い尺で、主人公を3人の俳優さんが演じることも、無理があるのでは?