「銀行CMでは欲求不満。久々の主演にざわつく"ユリコ"ファンの"ユリゴコロ"」ユリゴコロ Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
銀行CMでは欲求不満。久々の主演にざわつく"ユリコ"ファンの"ユリゴコロ"
"イヤミス"(読んでイヤな気分になるミステリー)という言葉が使われはじめたのは、そもそも本作あたりからである。2012年に第14回大藪春彦賞を受賞し、本屋大賞にもノミネートされた、沼田まほかるの代表作であり、"イヤミスの原点"的な作品だ。
主演は吉高由里子。決して"ユリゴコロ"だからではない(笑)。吉高ファンとしては、待望の映画主演で「横道世之介」(2013)以来、実に4年ぶり。"三井住友銀行"のCMがヘビーローテーションだったので、そんな印象はないかもしれないが、ホントに久しぶり。その間、NHK朝の連ドラ「花子とアン」があっただけで、ほぼ3年間、女優としては休業している。
作品のカラーもキャラクターも「蛇にピアス」(2008)以来のダークな作品となっていて、吉高ファンの見どころである。共演は松坂桃李と、松山ケンイチ。
"ユリゴコロ"とは、こころの"よりどころ"を意味する造語で、人を殺すことでしか、"よりどころ"を得られないサイコパス的な人物が登場する。殺人鬼による残酷な行為の描写が徹底的に連続する面では、ホラー映画に限りなく近いが、殺人鬼の真相を解き明かしていくミステリーとなっている。
中盤でその正体は見えてきて、答え合わせ的な展開になるので、もし原作を読んでいなら、まっさらで観た方が楽しめる。意外なのは、陰惨なサイコパスの話なのに、"赦し"を感じさせるエンディングに導かれてしまうのが不思議だ。
文章では分からない"事情"も、映像では出オチになってしまうということで、原作の設定にかなり手を入れている。木村多江の、"整形エピソード"を使うところとか…。原作既読の方はそのへんを確かめると面白い。
監督は熊澤尚人。小松菜奈の「近キョリ恋愛」(2014)、多部未華子の「君に届け」(2010)など、少女コミック系ラブストーリー作品が多いが、オリジナル脚本も書き下ろす。
今年7月の実写版「心が叫びたがってるんだ」(2017)は、アニメ版で映像的に完成されていた作品だけに演出の余地は少ないものの、アニメ版にはない学生ミュージカルのリアリティを見せていた。
本作では映像フィルターを多用している。そもそも「ユリゴコロ」はナンセンス設定で、ヘタに細かいリアリティを追求すると破綻してしまう。なので、"殺人イベント"で色調が変わるくらいの強調演出は、ツッコミどころを逸らす効果もある。いい意味でバランス感覚に秀でている。
(2017/9/23 /TOHOシネマズ日本橋/シネスコ)