「”しのぶれど…”と蘭が言えば。”せをはやみ…”と新一が返す。アンサーソングな作品」名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター) Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
”しのぶれど…”と蘭が言えば。”せをはやみ…”と新一が返す。アンサーソングな作品
前作の「名探偵コナン 純黒の悪夢 (ナイトメア)」(2016)が、歴代最高興収の63.3億円だったので、劇場版22作目にして、シリーズ最高記録を残すことになるだろう。
60億円というのは、過去すべて映画の中でも歴代100位くらいであり、20年を超えるシリーズものとしては画期的なことだ。
前作で、謎の"黒の組織"のメンバーが続々と登場して、原作コミックやTVシリーズでも明かされていない秘密が解明されるという期待感が、観客に足を運ばせるのかもしれない。20年前に小学5年生だった読者は、30歳になっているはずなので、ある意味で当然の結果である。
コナンもそろそろ完結なのか…と思いきや、今回、青山剛昌(原作者)は見事に裏切ってくれる。今年はまったく独立したオリジナル恋愛ストーリーとなっている。
昨年春にヒットした、広瀬すず主演の実写版「ちはやふる」(2016)にヒントを得て、"百人一首"をテーマにした殺人事件を仕掛けてきた。
マンガ原作アニメ作品「名探偵コナン」が、別の原作マンガ作品「ちはやふる」にメッセージを送るという趣向である。それも歌の世界にもある、まさに"アンサーソング"(返歌)となっている。
"千早(ちはや)ぶる 神代(かみよ)もきかず 龍田川(たつたがは) からくれなゐに 水くくるとは" <在原業平朝臣>
元歌となる"ちはやふる~"の言葉、"からくれなゐ"を借りて、"からくれないのラブレター"という本歌取りしたタイトルになっているのだ。また歌が詠まれている場所(竜田川)は、"奈良"であることから、コナンシリーズには珍しく、"関西"(大阪と京都)を舞台にした物語である。コナンのライバルである"西の高校生探偵"・服部平次が登場し、コンビで活躍する。
劇場版コナンの展開はいつもダイナミックである。ハリウッド実写映画さながらのアクションシーンは毎回驚かされるが、本作ではいきなりオープニングから始まる(もちろんクライマックスも凄い)。ほとんどの実写映画がVFXや3DCGを使ったデジタル描画(つまりコンピューターを使ったアニメ)で作られていることを考えると、もはや、"アニメ"と"実写"のボーダーラインは希薄である。
事件の推理詳細は、観て楽しんでいただくとして。殺人事件の解決のあと、江戸川コナン(工藤新一)と毛利 蘭の恋愛の行く末を占う歌が出てくる。蘭が、新幹線の中からメールで送った百人一首は。
"しのぶれど 色に出でにけり わが恋(こひ)は ものや思ふと 人の問ふまで" <平兼盛>
<現代語訳>"心に秘めてきたけれど、表情に出てしまっていたようです。わたしの恋は。人に「恋でもしているのですか」と訊かれるほど"
蘭が、なかなか会えない新一に、けなげな想いを込めると、新一(コナン)が送り返してきた歌は。
"瀬を早(はや)み 岩にせかるる 滝川(たきがは)の われても末(すゑ)に 逢はむとぞ思ふ" <崇徳院>
<現代語訳>"川の瀬の流れが速く、岩にせき止められ2つに割れた急流が、また1つになるように、愛しいあの人と今は分かれても、いつかはきっと再会しようと思っている"
なんともまあ、ラブラブな2人なのでした。
(2017/4/15 /ユナイテッドシネマ豊洲/ビスタ)