「絶妙に盛り上がらない所を通ってしまった作品」ビニー 信じる男 ヒロさんの映画レビュー(感想・評価)
絶妙に盛り上がらない所を通ってしまった作品
交通事故で首を骨折しながら奇跡の復活を遂げた実在のボクサー、ビニーパジェンザの物語。
ボクシング映画は大当たりの良作が多々見受けられるジャンルである。
レイジングブル、ロッキー…
なぜボクシング映画に良作が多いのか考えてみると、主人公が我を突き通す力、ある種のワガママに感動しているのではないか。
孤立したり、逆境に立っても己を変えない意思の力、その揺るぎない我によって成功を掴み周囲も変革していく、又は没落し地の底を這う。結末を成功or失敗どちらに振ったとしても主人公がその過程で自分を曲げなかった所に魅力がある。
主人公の曲げない自我に対して世間や現実というパンチが主人公を滅多打ちにする。
映画におけるボクシングの痛みは主人公が受ける現実世界の痛みのメタファーである。
そして、それに屈することなく立ち向かう、それがボクシング映画の醍醐味と考えている。
で、本作。本作は実話を基にしており首の骨折という、もうフィクションでもそれはやりすぎだろうという大逆境が主人公を襲う。
これは絶対盛り上がる強敵である。
が、本作はそこまで盛り上がらないのである…。
それはこの映画が怪我以外の要素、特に人間関係が主人公にとって都合良く進んでしまう点、そこのパンチが弱かったのではないか。
骨折によって最も変わるのは主人公のボクサーとしてのアイデンティティとそれを共有していた人間関係である。それが崩れた時、主人公がどう動いて切り開いていったかをもっと見たかった。主人公が感じた絶望をもっと地の底に突き落とす描写で見せる必要があったと思う。
正直、事実を並べて描写しているだけで世界仰天ニュースの再現映像と同等かそれ以下の人間の葛藤になってしまっていると思う。
あとハリウッド映画脚本の定石がイマイチハマっていないのではと感じた。
ファーストカット、イライラする関係者と十字架のネックレス、未だ減量している主人公が映し出される。主人公の破天荒さと復活の物語を象徴させているのかと思いきや、主人公はそんなに破天荒ではないし復活劇ではあるが聖書的な復活の物語ではない。
この辺のバランスのズレが作品全体に漂っており、シナリオがうまく噛み合っていなかったのではと思う。
一点、ボクシングファンとして一言。クライマックスの石の拳との対戦は、あれは純粋な世界タイトルマッチでは無い(笑)
あの辺はミッキーウォードの自伝映画、ファイターでもやってたし、まぁ映画の嘘、ご愛嬌ということで…