「日々是好日」パターソン 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
日々是好日
ジム・ジャームッシュ監督最新作。とはいえ
自分はジャームッシュ監督作品をまだ2作品しか観ておらず、
過去作との比較とかはできないのですが
まあひとつ Uh, huh. と聞き流してください。
ニュージャージー州パターソン在住のバス運転手・パターソン。
今どきスマホもPCも持たない彼の趣味は、詩の創作。
恋人と愛犬と共に暮らし、穏やかな毎日を過ごす彼の、
なんでもないような、なんでもあるような1週間の物語。
...
パターソンののんびりおっとりしたキャラや、
彼の日常を囲む人々がユーモラスで魅力的。
芸術肌で気ままな恋人(白黒大好き)は、
ちょい散財気味で、パイ作りの腕もアレだが、
パターソンの大切にしているものをちゃんと
理解してくれてる。大事なのはそこ。
バーの主人は故郷とチェスをこよなく愛するナイスガイだし、
未練たらたら男エヴェレットはダメダメだが、だからこそ
彼は打ちのめされた人への同情を抱く事が出来る。
そして毎日同じソファに鎮座するブサカワ犬マーヴィン君。
忠実なんだかワガママなんだか、何考えてるのか
良く分かんない(笑)。大事なノートを食べちゃっても、
あのシュンとしてる顔を見ちゃうと怒り切れない。
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パターソンの1日のサイクル。
恋人と目覚め、朝食にシリアルを頬張り、
徒歩で職場へ向かいながら詩を練り上げ、
バスを運転し、帰宅し、恋人と話し、
犬を散歩させ、ついでにバーに寄り、眠る。
月曜から金曜日までずっとこのサイクル。
だがそんな決まりきった毎日でも、
よっく見れば新たな出会いや発見に溢れているわけで、
例えばバスの運転中に聴こえてくる乗客の会話は様々だし、
恋人は新作料理に塗装にギターにと毎日違うことをしてるし、
バーではパターソン在住の有名人情報が日々更新されるし、
通勤路やコインランドリーで思いがけず
同じ趣味を持つ者に出くわすこともある。
...
パターソンの詩はそんな日常そのものが材料だ。
「ただの言葉さ。いつかは消える」
自作の詩をまとめたノートをズタズタにされた彼は
恋人(と自身)を落ち着かせる為にそう言ったが、
失われたノートは言うまでもなくただの紙の束ではない。
あの詩集は、時間と共にかすれて消えてしまう
日々の記憶と、そこから生まれた感動とを、
自分の人生に少しでも長く繋ぎ止めようとした記録だ。
マッチ、雨、車窓からの風景、恋人への想い、歌の一節、
なんでもない日常の中になんでもないように転がるものを、
言葉によって拾い上げ、磨き上げ、美しさを見出だす。
そこから伝わる感動は写真とも違う、絵画とも違う、
まさに言葉にしか伝えられない感覚のものだ。
だが同時に、言葉は儚く脆い。
感覚の海にその日その瞬間ぽかんと浮上した言葉を、
後から振り返ってすくい取るというのは至難の技。
だからこそ言葉は貴重で、書き残すだけの価値がある。
パターソンがコピーやら便利なスマホやらに
頼りたがらないのも、可能な限り、その瞬間に
拾い上げた唯一無二の言葉を大切にしたいという
想いからなのかも。
...
日々の何気無いものに目を向け、その価値を見出だす。
平々凡々に見える日々が、実は豊かなものであると知る。
そんな日々は続き、そんな日々は消える。
ふと呟いた言葉のように、過ぎ去った瞬間から
どことも知れぬ空虚へと消えてしまう。それを
形として遺そうとする行為は言い様もなくいじらしい。
鑑賞後、日常の何気無い出来事が、いつもより
ちょっと素敵に見えてくる、のんびりおっとり良い映画。
<2017.10.13鑑賞>
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余談:
永瀬正敏演じる謎の日本人。
ふわふわした言動でどことなく現実離れしてるが、
落胆したパターソンの心に火を点ける面白いキャラ。
あれはやたら堅苦しい天使か何かだったのかしら。
なんでもいいか! それでは皆さんご一緒にッ!
「Uh, huh.」