「歪な友情物語」セザンヌと過ごした時間 odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
歪な友情物語
クリックして本文を読む
セザンヌとエミール・ゾラは若い頃からの友人、ゾラが小説にセザンヌの暗部を描写したことで絶交したと伝えられるエピソードを軸に二人の真の心の内を探ろうとするダニエル・トンプソン脚色の歪な友情物語。諍いを中心に話が前後するので分かりにくい、まるで監督の仮説の検証を見せられている様です。もっとも後年(2014)、交友が続いていた書簡が発見され映画の信憑性が裏付けられた形です。
昔、美術館で観たセザンヌの静物画は薄い絵の具が何層にも塗り重ねられていて、厚さはコインが挟めるほどだった、陰影や色彩を超えた光の魔術師の印象が強く残っていたので彼の作風の秘密に触れられるかと期待したのだがあまりにかけ離れた人物描写に失望を禁じ得なかった。
もっともセザンヌ自身の人柄の問題だろうから監督を責めても仕方ない、むしろ女性を見る卑しさや下劣な描写は女性監督であることで免罪されているのかもしれない。
ランボーやゴッホ、ゴーギャンなど当時の芸術家の乱行振りや醜聞事件は多いから驚くほどのエピソードではないにしても終始、毒のある言葉が飛び交うドラマは良い気がしない、セリフに頼らず演技で語って欲しかった。貧困時代、雨の中、飛べない小鳥を捕まえて羽をむしるゾラの描写は見ていて辛い、豪邸にペットと住むゾラの変貌ぶりは人間の本質なのか、セザンヌに「お前の絵には心が無い」とはゾラもよく言えたものだ。
この種の伝記ものを観る方が悪いのだがセザンヌ鑑賞に無用なバイアスがかかるとしたら悔やまれる、作品の価値は作者の人格と無縁ではないが善い人の絵が優れているわけでもなく、逆もまた真であるところが芸術性だと思う・・。
コメントする