「私も、誰もが、ダニエル・ブレイク」わたしは、ダニエル・ブレイク 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
私も、誰もが、ダニエル・ブレイク
イギリスの名匠ケン・ローチが、2度目となるカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した社会派ドラマ。
労働者階級の主人公を通じて、失業、貧困、理不尽な社会制度の実態を描いてるが、あくまでイギリスの話。日本人には…そんな事は全くなかった!
国籍云々と言うより、自分の身に置き換えて、もし自分だったら…?
求職難や生活苦を経験した人なら誰にも通じる。痛烈なほどに。
大工40年の初老の男、ダニエル・ブレイク。
心臓病を患い、医者から仕事を止められる。
国から援助を受けようとするが、役所の判定は就労可。
ここでまずイラッと。ドクター・ストップなのに、何で仕事出来るって判定?
要は援助を貰えない。
納得いけないダニエルは何とか援助して貰えるようとするが、それには申し立て、申請、電話待ち、申し立て、申請、電話待ち、申し立て、申請、電話待ち…。
何でこんなに複雑?
援助受ける為には色々あって、その中の一つで失笑モノだったのは、履歴書講座。履歴書なんて中学生でも書けるっつーの。しかも、この講座受けないと処罰の対象になるとか。信じられん…。
このダニエルさん、かなりの頑固者で、皮肉屋。言いたい事もすぐ言ってしまう。
だから、お偉いお役所様の印象は悪い。
癇癪持ちの頑固親父は手に負えないけど、でもダニエルは言われた事は一応はちゃんとやる。何度も何度も申し立てや申請の為に役所に赴き、パソコンも習ってみたり(大工40年なのでパソコンなど触った事も無い)、アホらしい講座にもちゃんと顔を出す。ま、不服そうにではあるけど。
意外と実直で素直。
自分だったら、うんざりして途中から放り出すなぁ…。その昔、就職に苦労してた時、職安の何かの講座か説明会を受ける事になって仕方なく行った事あるけど、何でこんな事しなきゃいけないんだろう、と終始思ってた。
いつだったか市役所行った時も、あまりにも融通が利かない対応にカッとなってクレーマーした事もあった。
これでも(自分で言うのもなんだけど)穏やかな性格とよく人に言われている。
さすがに我慢の限界も。何だか見てて、色々思い出してしまった。
脱線してしまったので、話を戻すと…
ある日ダニエルは役所で、ロンドンから越してきたばかりで生活困窮のシングルマザー、ケイティと知り合う。
市役所職員との話によると…
何かの審査の為に時間厳守で来なくては行けなかったのだけれど、ロンドンから越してきたばかりで道も分からずバスも間違い、遅刻。それだけで違反。
職員と言い合ってると、黙ってられないダニエルが助け船を出し、それが縁で仲良くなる。
ケイティの境遇も不遇だ。
仕事も無い。金も無い。子供は二人。食べる物は必然と子供優先に。
ある配給所で、我慢出来ずに缶詰めを開けて食べる惨めな自分に泣くシーンが切なかった。
ある時つい万引きをしてしまう。同情したのか憐れに思ったのか、店員が仕事を紹介する。
その仕事とは…。若い女性が手っ取り早く稼げる仕事と言ったら…。
それを察知したダニエルは…。
この一件でちょっと仲違いもあったが、生活苦同士、友情を育む。
ダニエルはこのシングルマザー一家の生活を助けようとする。
しかし、そんなダニエルの生活も苦しくなる一方。
求職活動しないと手当てを受けられないとの事であちこち職を探し、一ヶ所気に入られるが、そもそも心臓病で働けないし、お役所様の命令でやむなくした手当ての為の求職活動なので、相手先の怒りを買う。ここも見てて切なかった。
これまでちょいちょいプチギレてきたダニエルの我慢の限界も頂点に。
遂には軽犯罪に当たる事をしてしまうが、同じ境遇の者は拍手喝采。
下層階級者の代弁。
ラストはまさかの悲劇。
心臓が悪いのに、色々とストレスを与え続けた役所が悪い。
これは前に何かの作品のレビューでも書いたが、社会はいつだって恵まれてる者の味方。本当に救いの手を求めてる者には冷淡。
私たちも、この国の一人だ。社会の一員だ。
こんな不平等ってあるか!
ダニエル・ブレイクを通じて人の尊厳を…なんて、大層な事は言わない。
人一人を、どうか見て欲しい。
カンヌ・パルムドール作品は合う合わないの差が激しいが、本作は大当たりだった。