「信念、信仰。汝、人を殺すなかれ」ハクソー・リッジ りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
信念、信仰。汝、人を殺すなかれ
戦争映画であるが、根幹にあるのは「信仰」、そういう映画。
米国ヴァージニア州の田舎町で育ったデズモンド・ドス(アンドリュー・ガーフィールド)。
父親のトム(ヒューゴ・ウィーヴィング)は第一次世界大戦に従軍し、親友三人を戦争で亡くした。
第二次世界大戦が激化する中、ドス家では兄のハルが志願し、そしてデズモンドもほどなくして志願する。
しかし、デスモンドは、過去の行為から決して人を傷つけないと心に誓っており・・・
というところから始まる物語で、前半はヴァージニアでの暮らし、中盤は陸軍基地での訓練の様子、後半は沖縄・ハクソー・リッジでの激戦と三部構成になっている。
後半の沖縄戦では、血しぶきも内臓も火炎も泥濘もネズミも腐肉も一体となった凄まじい様子が描かれるが、前半・中盤のドラマ部分がなかなか素晴らしい。
決してひとを傷つけない、武器は持たないと心に誓うデズモンドの心を丁寧に描き、彼の心の繊細かつ強靭さがわかるように描かれている。
それは、かつて犯した出来事・・・
幼い日、兄弟げんかの末に兄を殺しそうになったこと。
青年になってからのある日、酔った父親に銃を向け、心の中では引き金をひいていたこと。
心に深く刻まれる、十戒の「汝、殺すべからず」の戒め・・・
しかし、戦争はひとを殺すところだ、愛するひとを守るためには敵は殺さなければならない。
そう教え込まれるが・・・
平穏な日々と訓練の日々、そして激化した戦場という構成は、キューブリック監督の『フルメタル・ジャケット』に似ている。
しかし、あの映画では、普通の精神の持ち主を殺人マシーンに仕立て上げ、戦場に送り込む、そういうありさまを描いていたが、この映画の主人公は殺人マシーンになることを頑なに拒否する。
そして、その信念の強さ(信仰と言い換えてもいい)が、ハクソー・リッジでの人間離れした(神々しいまでの)行動に繋がっていく。
この映画は、基本的には、戦争映画の英雄譚の変型なのだろうが、それを越えたところまで描いているように思える。
信念、信仰、そういうものだ。
だから、ハクソー・リッジの陥落という、戦争における勝利の描写など不要。
(だが、英雄譚なので、描かざるを得ないあたりが、もどかしい)
信念、信仰などと書いたが、そんなことより、この映画を観終わって真っ先に感じるのは、「戦争は絶対に起こしちゃいけない」。
どんなに理由があろうと、戦場には「勝つ」「負ける」に二元論しかなく、それ以外の感情など余計なもの。
そして、戦場では人間は、血しぶきと肉塊になるしかない。
繰り返すが、「戦争は絶対に起こしちゃいけない」。