「敵も味方も無い戦争の凄まじさを背景とする人間の尊厳の素晴らしさ」ハクソー・リッジ Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
敵も味方も無い戦争の凄まじさを背景とする人間の尊厳の素晴らしさ
戦闘シーンの音と映像の大迫力に圧倒されるとともに、監督らに畏敬の思いを抱いた。自分は日本人ではある訳だが、主人公デズモンドら米軍に襲いかかる沖縄日本軍の奇襲攻撃で、あっという間に死体が転がり部隊が壊滅状態となり、見ているものは日本人であれ、戦争の恐ろしさを追体験することができる。この凄まじい戦火の状況下だからこそ、救出行為の崇高さ及び信念に基づいた行動に説得力が有るというもので、これだけの戦闘シーンを作り上げた方々に大きな拍手をしたい。
白旗を掲げていたのに隙を見せたら攻撃に転じた日本兵、火炎放射器で皆殺しを図る米兵、そして日本軍の狙撃の正確さや地下路を活用して姿を見せない攻撃は、その豊富な火力使用も含め、史実に忠実な様である。日本軍は一方的に、米軍の圧倒的兵器に殲滅させられたとのイメージであったが、調べてみると、沖縄戦では、米軍側も約10万人の死傷者と大きな犠牲を払っていたことを、改めてこの映画により教えられた。そして、日米のいずれか一方的になっていない視点には、大きな敬意が持たれた。
そして何よりも、デスモンドの信念に基づく行動に涙を伴う感動をさせられた。事実としては、殺すなかれとのイエスへの信仰心に支えられたものであるが、自己の気持ちに忠実であり、使命感を持っての献身的な行動は、とても普遍的なもの。自分は、そこから大きな活力とエネルギーを与えられた気がする。とても、そこまでのことはできないが、少しほんの僅かで良いから、自己の良心に忠実に、犬死せずに、戦略的に行動することは、自分にもできるかもしれない。さらに、この映画によりそういう炎が多くの方に灯れば、日本も米国も、世界も少し良い方向に動くかもしれないと、思わせる大傑作であった。