「『この世界の片隅に』の奇跡を思い知る」ハクソー・リッジ 琥珀さんの映画レビュー(感想・評価)
『この世界の片隅に』の奇跡を思い知る
75人の命を救ったことは事実だと思うが、あの攻防戦の戦略的な位置づけや必要性が描かれていないので、そもそも日米共あそこまで無駄死にしなければならなかった戦闘の虚しさやバカさ加減(勿論、兵士達のことではなく、戦略や戦術を立てたであろう、たぶんどちらかというと現場を知らない官僚的な立場の軍人たちの判断のことです)がよくわからなかった。というよりその面での判断材料は示されなかった。ということは、監督はこの映画における戦争の現場の悲惨さを、反戦的な意味合いというよりは信仰や信念の強さを強調するための演出として描いたのであろうか。
人間の自然な情感の有りようとして、むごたらしく、目を背けたくなるような場面には、演出力の巧拙に関わらず、生理的な嫌悪感や、二度と起こしてはならないという決意を抱かせる力があることは疑いようがない。
そういった観点から作品の持つ訴求力を比べた場合に、ほとんどの場面を戦争の最前線でない日常を描くだけで、あれだけ多くの人に戦争のおぞましさと我々日本人の愚かな選択がもたらした最悪の結果を容赦なく突きつけた『この世界の片隅に』の奇跡的な作品力に改めて唸らされた。
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