「殺人鬼とは…。」FOUND ファウンド 8sevenstars8さんの映画レビュー(感想・評価)
殺人鬼とは…。
めちゃくちゃ面白かった。
兄スティーヴがシリアル・キラーになった原因が具体的には語られないところが凄く良い。両親が大してひどい親じゃないところも。
殺人鬼になるのに、そうでない人間が理解するに足る理由なんていらないと思う。というか、本人にも説明できないだろう。親に虐待されてたとかいじめられっ子だったとか、後付けでいろいろ理由をつけることはできるけど、それはひとつの要因にしか過ぎないと思う。どんなにひどい育ち方をしても、普通は殺人鬼にはならない。
しかし、当然ながら要因はある。
ひとつは、途中で出てくる「HEADLESS」という超絶悪趣味映画。スティーヴがビデオ屋から盗んできた=そのくらいハマった映画だ。弟マーティと一緒にHEADLESSを鑑賞したデヴィッドは、
「つまらない。ストーリーもないし、最悪だ!」
と言っていた。
その通り。ストーリーはなく、ただ殺人鬼が女を殺し、その血を飲み、浴びて、切った首を使って絶頂に至る、というだけの映画。でもスティーヴは映画として楽しんでいた訳じゃなく、性的興奮を得ていた筈だ。これこそ自分が求めていたものだ!と、初めて性的に満足したのかも知れない。
次に、父親の影響。
父親はよくいる典型的な父親だと思う。強権的で時には暴力も振るうし、子供は子供としてしか見ないので息子が何を思って生きているかを真剣に考えたり聞いてあげたりはしないけれど、休日に映画に連れて行ってあげたりもするし、そこまでひどい男ではない。
おそらくスティーヴは元々父親のことが好きで、父の望む典型的なアメリカ白人タイプになりたかったのだろう。スポーツが出来て快活で、勉強もそこそこできるタイプに。できれば父親と同化したかったのだと思う。が、結局性質としてそうはなれず、父親をがっかりさせる軟弱で怠惰な自分と、自分をダメだと思わせた父親の両方を憎むようになった。
この歪みは、黒人ばかり殺す理由を弟に聞かれたときの「父さんの言う通り、奴らは害虫なんだ!」という台詞に表われている。憎みつつも、父親の影響をバッチリ受けている。
そして、この二つが融合したのが、母親をレイプして殺害するシーン。父親として母親を犯したかったのではないか?あのシーンは、父親との同化願望と殺人欲求が絡み合った結果だと思う。
弟には自分を重ねていて、自分が弟の年頃だったときに誰かがこうしてくれていたら…と繰り返し思っていたのだろう。というか、これまでに何度も何度も、両親を殺し、母親の首で絶頂に至る妄想をしてきたのかも知れない。
徹底して弟目線で、両親殺害シーンも声だけが聞こえてきて何が行われているのか想像するしかないもどかしさまで弟と共有せざる負えないのがまたよかった。
「こんな体験は人を歪ませる」
↑そりゃそうだ、と思ってちょっと笑ってしまった。
シリアル・キラーに興味がある人なら絶対観て損はないと思います。