「焼きそばのシーンが非常にいい」光(河瀬直美監督) SHさんの映画レビュー(感想・評価)
焼きそばのシーンが非常にいい
ドキュメンタリー手法と美的な絵づくりが見事に融合している印象で、決して高画質とは思えない映像でも、絵だけでかなり魅せられた。
複雑に絡み合う絵に、さらに追加されるイメージ映像など、個人的には非常に好みなのだが、台詞やストーリーについては手放しでは受け入れることができなかった。分かりやすさ重視と思われるような説明的な演出などは個人的には全く不要だと思ってしまうところ。極端な話、もっと絵だけで魅せてほしかった。内容が詳細な説明を要するだけに、逆に説明が入らないところはとことん不親切になってもよかったと思ってしまう。自由に何でも意のままにできると勝手に河瀬直美監督のことを思っているわけで、それ故のもどかしさのようなものを感じてしまった。
前半から中盤にかけてはただただ魅惑されながら見ていたけれど、後半は(最後の最後を抜かして)ほとんど受け入れがたい演出が続く。とくにカメラマン中森が現実を受け入れる場面などにおいては俳優永瀬正敏が可愛そうに思ってしまったほど。
でも最後の台詞は間違いなく素晴らしいもので、終わりかたも非常に格好良かったわけだから、まぁいらぬ批判は個人的な心にとどめておくとして、よかったところをもっと広めたい。
個人的には、中森と尾崎が中森の自宅で焼きそばを作って食べるシーンが非常に好き。虚実の映像がドキュメンタリー的映像を凌駕している瞬間として捉えることができたし、あくまでも虚構の世界をつくり上げるための手法として荒々しい映像をたくさん盛り込んでいるのだという明確な意図を感じとることができた瞬間だった。しかも説明的な台詞と映し出されている映像が見事に融合している部分だったので、作品のテーマとも非常にマッチしていて、秀逸なシーンだと感じた。できれば、こういった映像をもっともっと見たかったなーと思った故の不満たらたらでありました。