劇場公開日 2017年4月7日

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「攻殻機動隊が好きな人にはオススメ出来ない」ゴースト・イン・ザ・シェル 白石黒井さんの映画レビュー(感想・評価)

0.5攻殻機動隊が好きな人にはオススメ出来ない

2021年12月5日
iPhoneアプリから投稿

悲しい

 以下の背景で作られたんじゃないかなとネガティブに勘繰ってしまうほどダメダメな映画でした。

「よーし、今度はサイバーパンク風の映画を作るぞー!」
「でも設定とかキャラ付けとか考えるの面倒だしどうしましょうか」
「何か人気みたいだし、この攻殻機動隊ってやつから借りてくればいいじゃん!」
「成程!って設定とかがむず過ぎ!こんなんじゃ馬鹿達は分かんないよ」
「それなら設定を分かりやすく改変して、原作厨も騒がない様にこのシーンを入れて、ここをこうしてほら出来た!馬鹿にも分かるかっちょいいサイバーパンクの映画!」

 ...まるで、攻殻機動隊のキャラや設定を少し借りて作った、豪華なお人形あそび。
 しかも、攻殻機動隊の登場人物をアメリカのありきたりなキャラ設定に当て嵌めただけで、原作のリスペクトがほぼない様に感じた。

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・少佐...アメリカの映画によくいる、組織の行動に反発して活躍する英雄的主人公&自分は人間なのか機械なのかと自問自答するキャラ(古臭い)
・トグサ...グループの中の皮肉担当
・バトー...破天荒な主人公に付いていき、主人公のメンタルを代弁したりフォローする相棒役
・荒巻…主人公の行動を咎めて観客の反発心を煽るだけ煽ったりして、主人公が輝く場を用意する為にいる影の立役者存在の司令官
 etc…
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 原作の攻殻機動隊を意識して観ていたら、設定の作り込みの粗さやリアリティの無さ、登場人物全員の考え方の浅さに辟易した。

 自分は攻殻機動隊のアニメが好きで、其々のキャラの矜持や信念等の人柄が物語に厚みやドラマを加えていると思うのだが、この映画では、そういったものがペラッペラの薄っぺら過ぎる。トイレットペーパーより薄い、ケツを拭くのにも使えない。
 例えば、原作ではトグサが積極的に義体化(身体を機械に置き換える)しない事について、理由を深くは語りはしないのだがこの映画では、少佐の全身義体を皮肉りながら貶めていて、相手の立場や考えに立って思慮深く発言をしようとするアニメのトグサと乖離しすぎていた。
 言動の精神年齢が低過ぎるし、まるでアメリカンスクールで嫌味を言うジョック並の知性の低さにトグサをカテゴライズして表現する場面は不快だった。

 攻殻機動隊の世界の住人達は、現在よりネットやサイバネティクスが遥かに発達し、倫理観や価値観が異なる新世界の中で起こる、アイデンティティに関わる特殊な出来事に遭遇する。それが、この映画では単なる娯楽としての分かりやすい陳腐な設定に置き換えられてしまっていた。
 家族を持つ者、身体を義体化している者、ネットに棲む者、人間ではない機械の者。
 其々の登場人物達の人生の歩みや背景が感じられる考えの多様性、多面的な見方、そして一人一人の信念や立場に則った言動から、新世界の考えに触れる事で楽しめる。その中で、少佐やトグサ達の考え方に好感を持つ事で、作品が好きになっていったりしたのだが、これらの好きな要素が削ぎ落とされほぼなくなっていた。

 映画という120分の制約がある為に、キャラ付けを分かりやすく設定もとっつきやすく変えるのは別に良いと思うのだが......余りにも酷過ぎて原作を侮辱している風にまで感じた。
 攻殻機動隊とは一切関係のない、別のサイバーパンク映画として観ればいいと思ったが、もう攻殻機動隊を知ってしまっているのでフィルターをどうしても通さなくてはいけないし、総じて見ると一本の映画として普通に脚本がつまらなかった。

白石黒井