パディントン2 : 映画評論・批評
2018年1月9日更新
2018年1月19日よりTOHOシネマズスカラ座ほかにてロードショー
奇想天外なアイディアと個々のハートが溶け合った極上のハーモニー
ロンドンのパディントン駅1番ホームへ赴くと、旅行鞄を携えた若きクマさんの銅像が目に飛び込んでくる。昨年、原作者マイケル・ボンド氏が逝去した際に、多くのファンがマーマレードをお供えしていたのも記憶に新しいが、思えば、まだ名もなきクマがブラウン一家と出会い、新生活をスタートさせたのもまさにこの場所。世界中で大ヒットした映画第一弾では、それらの“始まり”を描くと共に、寓話的世界の中に「多様性の受容」や「相互理解」というテーマを盛り込んでいたのも大きな特徴となった。
あれから2年。難民問題の深刻化、ブレグジットをめぐる動き、そして多くの犠牲者を出したテロ事件など、前作の尊いテーマが消し飛んでしまうような世情と並行してこの第二弾は製作された。だが、いざ本作を紐解くと主人公のクマは以前と何ら変わらぬ歩調で、続編の世界を健気に、そしてユーモラスに闊歩している。そのことに何だかホッとさせられるのだ。もしくはこの映画の作り手たちは、そうやって変わらぬタッチを貫くことこそ、不寛容になりつつある世の中に抗う唯一の術と考えているのかもしれない。
一方、英国コメディらしい素っ頓狂な発想は大いに健在だ。何しろ「おばさんに誕生日プレゼントを買ってあげたい」という純粋な思いから始まったかと思えば、いつしかこのクマは濡れ衣を着せられ、刑務所へ収監(!)されてしまうのだから。でもどうかご安心を。突飛なピンクに満ちた監獄ライフはどこかウェス・アンダーソン作品「グランド・ブダペスト・ホテル」を彷彿させるほど可愛らしく、そこから派生するお料理&脱獄ドラマは奇想天外。パディントンの無実を証明しようとブラウン一家や囚人仲間が力を尽くす姿も実に微笑ましい。
そして今回、最大の賛辞を送るべきはやはりヒュー・グラントだろう。彼が演じる「過去の栄光にすがって生きる、落ちぶれた俳優」はいろんな意味で示唆的だし、これまで演じてきたどの役とも全く異なる、第三形態ともいうべき捨て身のエンターテイナーぶりもたまらない。作り手たちがそんな彼に敬意を表し、最後の最後まで一挙手一投足を熱烈なスポットライトで照らし続けるのも至極納得なのである。
かくも個々の奏でる色とりどりの音色を、卓越した手腕でしっかりとまとめ上げた豊穣なハーモニー。それがこの映画の本質である。優しくて、おかしくって、マーマレードの甘みと苦みに満ちた味わいに、原作者のボンド氏もきっと天国で満足げに微笑んでおられることだろう。
(牛津厚信)