「ザジの苦悩を知ってハッとする」ブルーム・オブ・イエスタディ つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
ザジの苦悩を知ってハッとする
なんとも不思議な作品である。
コメディとはいえないだろうし、ラブロマンスとしては中途半端で、ホロコーストものとしてはインパクトに欠ける。
しかし、新しい発見をさせてくれた今までと違った視点の興味深い作品だった。
物語の中心であるトトとザジは同じ出来事を発端とする加害者の孫と被害者の孫で、全く逆のベクトルにある存在のようで、その本質は同じ悩みを抱えた同じ立場の人間だったのだ。
講演を頼まれていた女優は言った。アウシュビッツを知らない者には話したくないと。
トトとザジは間接的とはいえ、アウシュビッツを知る者だ。辛い出来事、辛い過去を背負った二人はお互いが真の理解者になることができたのだ。だからこそ惹かれ合ったが、やはり加害者の孫と被害者の孫という一番根っこの部分で交わることが出来なかったのは必然だったのだろう。
トトの苦悩ははじめから理解しやすいものだった。祖父の行いに引きずられ背負わなくてもいい業を背負った。過剰に反応する彼に、そこまで思い詰めなくてもと感じたが理解不能というわけではない。
それに対しザジの苦悩は始めはわからなかった。只の頭のネジが飛んだキャラクターかと思っていた。しかし本当はベンツが好きで、ベンツが好きな自分が許せない彼女の苦しみはハッとするものがあり、被害者の孫もまた、背負わなくてもいい業を背負った人間だと知った。被害者の孫として恨み続けなければならないと思っている悩み。だから彼女もトトと同じように過剰に反応するのだ。
(はっきりと明言されているわけではないが)元ナチ信奉者だったトトはザジと結ばれることはなかったが、数年後に悲劇の地を離れてアメリカで再開する二人は、どこか呪縛から解き放たれたようで不思議な安堵感があった。ザジの娘(息子)の存在が安らぎを運んでくれたのだと信じたい。