「血は繋がってるけど、家族ではいられなかった私達」サーミの血 DEPO LABOさんの映画レビュー(感想・評価)
血は繋がってるけど、家族ではいられなかった私達
・「血は繋がってないけど、私たちは家族です」というようなテーマの物語やドキュメンタリーはよく観るけど、今作はその逆
・「血は繋がっているのに、家族ではいられなかった物語」
・観る前は、遠い国の民族的なテーマで感情移入できるか心配だった
・観てみたらスーパー感情移入できるやん
・強烈な迫害の雰囲気というのは、スウェーデンならではだと思うけど、家族や地元の世界が窮屈に感じて自由を求めるのは、どこの国でもある普遍的なこと
・だから遠く離れた日本の人が観ても、がっつり感情移入できる
・例えば、方言の訛りがすごくて、東京に出てくるときに、恥ずかしい想いをしたくないから必死で標準語を練習するという人だって、日本にはたくさんいるはず
・それは、ダンスパーティに繰り出す前に、体臭を気にして湖で洗うエレの姿と重なる部分がある
・遠く離れている国の人でも共感できる部分がとても多い
・そういうところに、日本で今作が公開された意味がある
・そういった普遍的なテーマに加え、ヨイクのシンプルな旋律のようにシンプルな暮らしを営むラップランドの美しい原風景が、映画としての力を宿してる
・撮影は「影を撮る」と書くけど、まさに光を使って影を映すというような画の連続で、ひたすら映像が美しい。
(エレの心の翳りの描写が非常に巧み)
・直感的に「怖い!」と思わせる、カメラのシャッター音の音作りがすごい。
・自分の望む場所で生きていくために、どんな手を使っても男を味方につけようとするサーミの色気がすさまじい。
・エレに全否定された時の妹の、「ブワァッ」っと出る涙、すごい。
・老いたエレに漂う家族に対する罪悪意識の負のオーラがはんぱない
・実家が窮屈だとしても、自分が罪悪感を感じない程度に、適度な距離を持って接したほうがいいんだなぁと、個人的には学びました。
・ダンスフロアの中にいる老いたエレと、息子と娘がヘリに乗ってトナカイ狩りに向かう対比がゴイスー
・自分の生き方は正しいのかと、老いてもなお葛藤しつづけているエレ
・冒頭とラストを、老いたエレのシーンで挟む構成が非常に効いてる
・差別というものは、人の一生に影響を与え、家族の仲も引き裂いてしまう恐ろしいものだと見せつけられました
・エレの孫が、かつての偽名と同じクリスティーンなのは、偶然か必然か
・自分より若い世代には、差別に負い目を感じないで幸せになってほしいという願いを込めて、孫の女の子をクリスティーンと名付けたのではないか
・世間的に差別はなくならなくても、自分の家族だけはと、自分の代で差別を断ち切ろうとするエレ
・だからいまでも、サーミ人であることを隠しているのではないか
・かつては自分のために血を否定したけど、老いた今では、自分の家族のためにも血を否定するという、エレの切なさ