「身を売った姉と留まった妹、それぞれの選択肢」サーミの血 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
身を売った姉と留まった妹、それぞれの選択肢
「ホテル・ルワンダ」を見た時にも思ったことだけれど、差別というのはどの国でもなくなることなく必ず起こるものなのだなぁと改めて感じる。「ホテル・ルワンダ」を観ても、見た目にはフツ族とツチ族の違いなどは日本人である私にはさっぱり分からないほどであったし、この「サーミの血」を観たってサーミ人とスウェーデン人の違いなどさっぱり分からない。けれども、そこにははっきりとした区別と差別があって、蔓延っては人々を貶めている。昨今、なぜか一部の日本人が憧れの対象に掲げている「北欧」で、私たちの知らない差別があるということを直視させられて、「あぁ、やっぱりどの国でも同じなんだな」と思わされた。
この映画で面白いのは、サーミ人として生まれた姉妹がそれぞれ別々の人生を送っていく点だ。主人公となる姉はスウェーデン人を偽って、スウェーデン人に擬態することを選択する。しかし妹はそんな姉を訝しく思い、どこか憎しみのような感情を抱いているということ。主人公は姉なので、妹は前半と終盤にしか登場しないが、主人公が「クリスティーナ」という名の少女として生きている間にも、その背後には故郷ラップランドに留まった妹の影があるような感じがして、身を売った姉と留まった妹の対比が上手くはたらいていたし、それぞれの人生について想像を掻き立てられるエンディングも良かったと思う。
姉の選択とその後の生き方に関しては「サーミ人としてのプライドはどうなるのか?」みたいなことが一瞬だけ脳裏をよぎって、しかしすぐさま打ち消した。その考えもまた「出自による拘束」という差別だと思ったからだ。サーミとして生まれたんだからサーミとして生きろよ、と口で言うだけは簡単だけれど、そこから逃げたいほどに切実な差別があってもそれを強要するのはやっぱり違うだろうなと思う。そこで生きてくるのがやっぱり妹の存在で、「サーミの血
」を捨てようとしている姉のことを批判できる唯一の人物が、同じ血を分けた妹だというのは実に筋の通った話。
差別が大きなテーマの作品だけれど、どことなく青春映画のような空気もある。クリスティーナと名乗って生きている間、そこにはスウェーデン人として生まれていればごく当たり前に手に入ったであろう青春があり、そういったシーンはとても瑞々しく描かれている。しかしそれらは、サーミ人として生まれた者には遠く手の届かないもので、主人公は(必ずしも勉学や教師という職業だけでなく)きっとこういう瑞々しい青春にも憧れていたんだろうなぁ、と少女の気持ちを考えると、差別に立ち向かえるほどは強くなれず、スウェーデン人を偽ることで逃げ切った主人公の葛藤がとてもよく分かる気がした。
差別をテーマに描いた作品としては、内容自体は想像の域を超えることはなく、ある一定のところに落ち着いたような印象が強かった。しかしこの映画がなければ、私はスウェーデンにサーミという民族があり、そこに差別があるということを知らないままだっただろうと思う。きっとこの地球上には、私の知らない差別がたくさんあり、それと闘っている人がいるのだと、この映画を観ながら改めて思った。偶然マジョリティに生まれたからと言って、無頓着ではいけないと、身を律したい気持ちになった。