サクラダリセット 前篇 : インタビュー
野村周平&黒島結菜&平祐奈の“共闘”を支えた深川栄洋監督の魔法の言葉
河野裕氏のデビュー作となったシリーズ小説を、野村周平、黒島結菜、平祐奈の共演で実写映画化した「サクラダリセット 前篇」(2部作)が、3月25日に公開される。さまざまな要素を盛り込んだ、緻密なストーリー構成で人気を博した小説が原作とあって、演じる俳優陣にとっては課題の多い現場だった。野村、黒島、平は、どのように作品と対峙したのか? 3人の“共闘”の裏には、メガホンをとった深川栄洋監督の“魔法の言葉”があった。(取材・文/編集部、写真/堀弥生)
本作は、住人の半数が特別な能力を持つ不思議な街・咲良田(さくらだ)が舞台。体験したことは決して忘れない“記憶保持”の能力を持つ高校生・浅井ケイ(野村)と、世界を最大3日分巻き戻す“リセット”の能力者・春埼美空(黒島)が、2年前に死んだ同級生・相麻菫(平)を救おうと奮闘し、やがて咲良田の未来に関わる騒動に巻き込まれていく姿を描く。
全く異なる能力を持つ個性豊かなキャラクターと同様、キャスト3人の性格も対照的。10~20代の若手俳優の多い現場を引っ張ったのは、底抜けに明るい主演俳優・野村だった。
平は、「野村さんは大人だけど、そういう壁を感じさせない。いつもムードメーカー。明るい空気を作ってくれました」と感謝。黒島は、野村の社交性に助けられたそうで「とにかく気を使ってくれました。撮影中に私の目が腫れてしまった時も、遠まわしに(スタッフに)私の気持ちを代弁してくれたことがあったんです」と明かす。後輩2人に絶賛された23歳の若き座長は「現場はみんな若かったですね」と兄貴風を吹かせたが、女性陣は「でも野村さんが一番元気ですよ(笑)」(黒島)、「そうですね!」(平)と一蹴。リーダーシップを発揮する一方、後輩からいじられる隙も見せる。そんな“愛すべき座長”である。
ヒロインを務めた黒島は、野村とは対照的に慎重に言葉を選びながら話す。19歳とは思えぬ落ち着きに、野村は「しっかりしているよね。19歳って大人になるかならないかっていう時期、『ちょっと大人になりたいな』って感じでしょ? だからかわいいですよね(笑)」とニッコリ。18歳の平は、「役と真面目に向き合っているのが素晴らしいなって」と羨望の眼差(まなざ)しを向けた。
元気担当が野村なら、癒し担当は平。野村が、「元気で、いつも現場を明るくしてくれたから、こっちも元気が出た。癒しでした(笑)。本当にいてくれてよかった」と振り返ると、黒島も「癒しです」と強く同調。本人は照れまくっていたが、この日も無邪気な笑顔とキャラクターで現場を和ませてくれた。
そして、本題「役との向き合い方」。個性の異なる3人に対し、深川監督は演出方法を変えていたという。「1人1人に話し方を変えて伝えてくださるんです」(平)、「いろんな言葉をくれた」(黒島)と説明。「同じことを、いろんな言葉で表現されるので、理解するのが難しいこともあった」という意見があがったが、平は「多分あれは、監督ならではの魔法の言葉だと思う。私たちが能力者を演じるからこそ、そういう言い方だったんじゃないかな」と述懐した。
感情の起伏の少ない春埼を演じた黒島は、「微妙な目線、口の開き具合、瞬き、呼吸。そういうところで表現するお芝居が多かったのですが、監督が丁寧に向き合ってくださった」と告白。「セリフが少なかったので、声を発するのが難しかった。どうしても声が小さくなっちゃう。でも、マイクで(声を)拾わなければいけないから、ある程度出さなければいけない。『声を出したらお芝居が変わってしまうかもしれない。怖い』と思って、監督に相談しました。そしたら、私の気持ちを理解してくださって『それでも一回やってみて。違ったら、ちゃんと僕が指摘するから。全部僕に任せて。大丈夫』と言ってくれたから、撮影後半は自信を持って声を出そうという意識になりました」と振り返った。
平に至っては、魔法の言葉が「作品との向き合い方」そのものを左右した。「相麻菫を演じている時、毎日が楽しくて。それは深川監督のおかげでもあって。丁寧にこと細かく相談にのってくださった。泣き芝居が多かったのですが、私がどうしたら泣けるのか読み取ってくださり、カメラが回るまでずっと側にいてくださった。プレッシャーもありましたが、監督に『一回やった芝居は捨ててってください』『自由に動いていいです』と言われて、『同じ芝居を意識しなくていいんだ』と思ったら楽になりました」。
そして野村は、その人柄と同様に作品との向き合い方も超ストレート。「俺は『やってみなければ分からない』というのが口癖なんです。現場に入らないとわからないんです。直感の部分もある。(撮影当日が)雨かもしれないし、寒いかもしれないし。そこで芝居が変わってくるんです」と明かす。それを察してか、深川監督の指導もシンプルだったという。「『賢くみせてください』と。もとは賢くないみたいな言い方をされましたね(笑)」。
役者の性格や個性に合わせ、“魔法の言葉”を授けた深川監督。その様子を座長として見続けた野村は、「僕らの言ったことを、きちんと飲み込んでくれる監督」と全幅の信頼を寄せた。