「ルイーズの悲しみと、決意」メッセージ トールさんの映画レビュー(感想・評価)
ルイーズの悲しみと、決意
難解な物語です。原作は(あなたの人生の物語)と言うルイーズの娘のハンナの物語という意味なのでしょうが、映画はルイーズが、娘の生涯をおいながらも一人称で語る自らの心の軌跡を追っていきます。 観る人は、彼女に共感しながらも、時々挟まれるフラッシュバックのような娘の記憶(のようなもの)に戸惑いながら、彼女と同じ時間をたどった末に、全ての意味を知る事になるのですが、それは大団円とはならず、悲しみとも喜びともつかない、何とも言いようのない深い感動をもたらします。
彼女は異星人と接触していくうちに、(未来が予知出来るというのではなく)過去と現在、未来が同時に存在していく事に気が付いていきます。(それは彼女が娘にハンナと言う回文の綴りの名前をつけたことからも示唆されます)
しかし、それは現在も未来も全てが決定論的に定まっており、そこには自由意志が働かないこと意味しています。彼女は異星人がやってきて人類に和解をもたらし危機を救い去っていく過程にかかわる事で、それを理解し、自らも、去っていくであろうイアンと結婚し、失うであろう娘を生む運命を受け入れます。
最後のイアンのプロポーズの直前に、彼女は彼に、未来が見えたら選択を変えるかと、尋ねます。彼は、愛する人により思いを伝えると答えます。このちぐはぐな答えに、最初自分はイアンは彼女の問いに答える気はなく、そのあとに続くプロポーズの前振り程度にしか考えていませんでしたが、よく考えると、運命を受けいれるかと(受け入れざるを得ない事を彼女は知っているはずですが)問う彼女に対して、自由意志を信じて疑わないイアンが、自分の意志でプロポーズを伝えると言っているのであり、二人のギャップを対比していたのだと気が付きました。
ルイーズは、イアンに理解されないことも、その後別れていく事も、娘を生み、若くして失う事も受け入れています。
このルイーズの全てを知ってしまった悲しみ、それを受け入れた上で、その刹那を精一杯に生きていこうとする決意。それに至るまでの軌跡こそが、まさにこの映画のテーマなのでは無いかと思いました。
SFと言う大掛かりな仕掛けを用いながらも、映画は、決して押しつけがましくなく静かに、細部にこだわりながら控えめに主張していて、後から、深い余韻が残る佳作でした。