「私たちの世界への、人生への、メッセージ」メッセージ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
私たちの世界への、人生への、メッセージ
シリアスなドラマやサスペンスに手腕を奮うドゥニ・ヴィルヌーヴがSFに初挑戦。
公開迫る『ブレードランナー2049』を前に肩慣らし…なんかではない!
良質作続くこの絶好調監督にまた一つ秀作が、また一つ才を見せた。
突如、世界各国に飛来した地球外物体。
女性言語学者のルイーズは軍の要請で接触を試みる…。
ワクワクするくらい好奇心そそられる知的SF!
『未知との遭遇』『コンタクト』『インターステラー』…この類いのSFが好きならまず見て損は無い。
冒頭からすでに飛来。でも、まだ“それ”は見せない。
ルイーズが現場に着いて、初めて目の当たりにする。
広い平原の霧の中に浮かぶ、その偉容。幻想的でもある。
“殻”と呼ばれるその中へ。何も無いシンプルなデザインと暗い海底のような雰囲気ながら、そこでは重力など我々の常識は通用しない。
ガラスのような壁の向こうに、朧気に現れた“彼ら”。
これまで見たどの“エイリアン”とのビジュアルとも違う。
音響も秀逸。
難しいとの声が多いが、難しいのは専門的な用語なだけであって、確かに知的ではあるが、展開に難は無い。
自分たちの言語、彼らの発する言語、それらを少しずつ解明していき対話する様も丹念に描かれている。
彼らの発する言語がユニーク。
触手から墨のようなものを出し、それが何かの形になる。
幾ら何でもエイリアンの言語は分からない。
でも、人間の言語だって難しい。
それぞれの国にそれぞれの言葉や文字があって、同じ意味でもそれぞれの国によって違って。
彼らエイリアンからしてみれば、人間の言語の方こそ複雑。
だからこそ、一つ一つ、少しずつ少しずつ、分かり合っていく事が…。
時折挿入される、ルイーズの脳裏にフラッシュバックされる“記憶”。
ファーストシーンもそれで、我々は勝手にそういう悲しい“過去”を抱えた設定と思い込む。
が、それは先入観で、まるで彼らエイリアンが時間の概念など無に等しいのと同じ、意表を突く“記憶”だったとは!
SFではあるが、見返したくなるほど巧みに構築されたドラマ性。
それを支えたエイミー・アダムスもいつもながらさすがの名演。(『マダム・フローレンス!』のメリル・ストリープより、エイミーがノミネートされるべきだった!)
彼らの来訪の目的は…?
彼らが伝えようとしている“メッセージ”とは…?
ちょっと肩透かしのようにも感じたが(時を越えて義理堅い彼らだけど)、そういう事だけじゃない。
我々の理解出来ないもの、常識で計り知れないものは、脅威。
確かにそれは分からんでもない。
でも、先に手を出したら、そこで終わりだ。
まず、対話を。分かり合う事を。
その為に我々には、言葉がある。文字がある。知能や意思の疎通の術がある。
もう一つ。
時間を超越出来たら…?
未来を見る事が出来たら…?
幸福? 安全? 落胆? 絶望?
運命なんて言葉で片付けたくないが、それが悲しい未来であると分かってても、避けては通れないだろう。
例えどんなに不条理でも、それに後悔しないくらい、溢れんばかりの言葉で、想いを、語りたい。伝えたい。
ビジュアル面、SFセンス、巧みなストーリーテリング…。
ドゥニ・ヴィルヌーヴの“メッセージ”を確かに受け取った!
そしてこりゃ本当に『ブレードランナー2049』が楽しみになってきた!