「タイトルの時点でネタバレ?」マリアンヌ うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルの時点でネタバレ?
ALLIED
the Alliesで連合国つまり、ドイツやイタリアを敵に戦った同盟関係を表す英語らしい。the Allied Forcesは連合した軍隊=連合軍のこと。
でも、直感的にはa lieが含まれる、「嘘の関係」を連想させる。利害が一致する同士が手を組んで行動する関係を表したタイトルだろう。
それを、日本語タイトルで「マリアンヌ」にしたのは、失敗じゃないかと思う。
そのままのタイトルでは何のことだか伝わりにくいし、固い日本語で「ニセモノの愛」とか「欺く関係」みたいな表現も難しい。いかにもヒットしなさそうな感じで、しかたなく「マリアンヌ」にしてお茶を濁した感じがする。
でも、このタイトルを選んだ時点で映画の内容は、どうしたってマリアンヌの正体にフォーカスしていることが判明するわけで、予告編で二重スパイかも知れない妻に苦悩するブラッド・ピットの様子もうかがえる。
彼女が何物かを疑ううちに訪れる悲劇。ここまでは、予告の段階で明かされている。だとすれば、結末は「二重スパイが発覚し妻が殺される」「二重スパイではないが悲劇的な運命」しかないだろう。「疑いが晴れました!めでたしめでたし」だけは絶対にないのである。そこまで分かってしまっている映画を、身構えることなしに誰が見るだろうか。ラストの衝撃が薄まる。ネタバレに近いミステイクだろう。
主演の二人の演技は素晴らしい。
ゼメキスの円熟の演出は「語らない」ことで背景を見せようとする方向にシフトしているようだ。
砂漠でクルマの中で愛し合う二人を砂嵐が包み込む様子は、誰も見てないうちに、偽りの関係が本物らしくなり、砂に埋まってしまい抜け出せなくなることを暗喩したものだろう。偽の夫婦を演じるために愛し合う様子を「見せる」彼女なら、きっと夫をだますのも簡単だろう。そう思うと、どんどん怪しくなっていく。
説明のセリフが極端に削り取られているのも、最近のゼメキスの好みなのだろう。
マリアンヌが赤ちゃんに歌っている子守歌は「猫の子守唄」といい、ストラヴィンスキーが1915年頃に作曲したもの、1919年にウィーンで初演されたそうで、フランス語にも翻訳され、親しまれていたそうだ。ということは、彼女の出自がこの通りだと考えていいんじゃないだろうか。ロシア系のフランス人だと。
劇中にあるように、天才的に人を欺くのが上手いことでドイツ軍に拾われ、レジスタンスの戦いで戦死した本物のマリアンヌになりすましたのだろう。生きていくために。
ブラピが演じるマックスも謎の多い主人公だ。カナダ空軍の所属で猛特訓したフランス語はひどいケベック訛りということと、高度な戦闘訓練を受けていることだけは、劇中のアクションで想像できる。これも、説明しないことで想像に任せるという設定なのだろう。
「ドク?デロリアンをタイムマシーンに改造したの?」なんていうセリフは、逆さにして振ったって今のゼメキスからは出てこない。
アクションも抑え気味、俯瞰でとらえたものが多く、空襲の中逃げまどう人のなか行き場もなく出産する場面や、にじむ窓越しに墜落する爆撃機がどんどん近づいてくる場面など、昔の彼ならもっとハラハラドキドキのド派手な演出にしたんじゃないだろうか。
哀しくて、純粋な愛の形、「愛してる、ケベック人」とフランス語で別れを告げる彼女に、「アイラブユー」と英語で返すブラピ。どしゃ降りの中、ブラピが流す涙は雨まじり。美しい別れを描いた、いい映画だった。