「世界観に入り込むのが大変」GODZILLA 怪獣惑星 アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
世界観に入り込むのが大変
ゴジラの長編アニメ映画である。3部作になる予定だという。90 分未満という短い作品ながら,話の密度は濃く,画力は凄まじかったが,果たしてこれがゴジラ映画である必要があるのだろうか?というのが率直な感想であった。
まず,物語の舞台となる世界観についていくのが大変であった。20 世紀後半以来出現した怪獣のために,地球環境が著しく悪化し,怪獣に対して半世紀に渡り敗走を重ねた人類は,種全体の存続を図るため,一部の人間を他星に移住させる計画を立案宇宙移民を実施したというのだが,その宇宙船が出発したのが 2048 年であるという。今からわずか 30 年後という設定である。数千人を乗せた宇宙船が,亜空間飛行(ワープか?)を駆使しながら何十年にも亘って宇宙空間を旅するというのだから,出発はせめてあと数百年先にして欲しかった。
宇宙船時間で 20 年ほどが経過した時点で,乗組員は食料とエネルギーの枯渇に怯えて長期間の宇宙船生活に飽きたという始まりなのだが,そんなの覚悟して乗り組んだんではないのかと言いたくなった。おまけに,宇宙船が自転して遠心力で擬似重力を発ししている訳でもなさそうなのに,全員が地球と同じような重力の元で活動しているのに違和感全開であった。SF の最低限のお約束も守るつもりがなさそうだということで,冒頭からかなり肩透かしを食らわせられた。
2種類の宇宙人が地球人と一緒に生活しているなどという話が,大した説明もなしにあっさりと語られたのにも脱力してしまった。しかも,その宇宙人の信仰が地球人にも浸透していて,神官が組織の意思決定に重要な役割を持つなどというのだから,いきなりその世界に馴染めとか言われてもご無体なと言いたくなった。なぜこのような設定になっているのか,必要性が全くわからなかった。続編で解決されるのだろうか?
対ゴジラの戦闘の作戦を過去の映像だけから立案するというのもどうかと思われた。ゴジラの内部など誰も知る訳がないと思うし,どれだけのダメージを与えれば倒せるのかという数値さえ誰にも算出できるはずがないのに,いかにもそれらしく語られる台詞にはどうにも嘘くささが鼻についてしまって入り込めなかった。おまけに,地球の状況が探査衛星頼みでわずかしか得られていないというのに,作戦の立案が拙速すぎるのではと思った。
肝心なゴジラの造形は,ハリウッド版ゴジラの第2作を基にしたようなずんぐりした姿で,顔はどう見ても巨大な犬にしか見えなかったし,実写やモーションキャプチャのゴジラにはできない動きなどが見られるのでは,というほのかな期待はあっさり裏切られた。ほとんど山のようなもので,動きは鈍く,何故か電磁シールドを備えているという。シールドを弱めて EMP(電磁パルス)弾を撃ち込むというのだが,EMP など起こしてしまったら,攻撃している戦闘機等も機能を失ってしまうだろうにという心配は要らないレベルの SF なのだろう。
音楽は服部隆之で,非常に場面に合った曲を書いていたように思うが,あまり耳に残らなかった。アニメにした成果というものがあまり感じられなかったのは,人間側の描写に過剰な労力を注ぎ過ぎたからではないのかという感じを受けた。さらに,いくら怪獣だからといって,寿命のスケールが2桁くらい違うのではないかというところに唖然とさせられた。初作の公開スクリーン数がこれほど少ないのでは,続編の集客数が懸念される。
(映像5+脚本2+役者3+音楽4+演出4)×4= 72 点。