「地球から人類を駆逐した生命進化の頂点」GODZILLA 怪獣惑星 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)
地球から人類を駆逐した生命進化の頂点
今年はすでに『BLAME!』が上映されているので、ポリゴン・ピクチュアズはとても精力的に作品を制作している印象である。
筆者がポリゴン・ピクチュアズ制作のアニメーションを観るようになったのは劇場版の『亜人-衝動-』からである。
そして東京アニメアワードフェスティバル2015においてTVアニメシリーズの『シドニアの騎士』全12話をオールナイト上映で一気に観てアメリカとは全く異なる100%CGアニメーションの可能性に感動を覚えた。
その後も劇場版『シドニアの騎士』、劇場版『亜人』の残り2作品、TVシリーズ『亜人』第1・2期の全26話、TVシリーズ第2期『シドニアの騎士 第九惑星戦役』全12話、『BLAME!』と相次いで観ている。
最近はアニメの制作会社がポリゴン・ピクチュアズと聞くだけで自然とわくわくしてしまう。
また『魔法少女まどか☆マギカ』や『PSYCHO-PASS サイコパス』など内容に唸ってしまうアニメの脚本を手がけてきた虚淵玄が本作の脚本を担当しているのも嫌が上にも期待を高める。
ゴジラに敗れた人類が地球を捨て宇宙の他の居住可能な惑星を探す旅に出たり、他人種のエクシフやビルサルドを登場させたり、ゴジラ作品でありながら本作をSF色の濃い作品にしているのは、ポリゴン・ピクチュアズの強みを活かす良い展開である。
そしてCGの出来は相変わらず文句のつけようがない。
ただ恒星間移民船アラトラム号で約40回の亜空間航行で20年かけて目的地に到着したものの、ダイチ・タニらのじいさんたちの乗る揚陸艇が爆発したのを契機に、地球まで一気に亜空間航行して戻るという展開はご都合主義的である。
今までの20年は何だったのかといきなり自ら突っ込みネタを提供するようなものである。
揚陸艇の爆発自体も裏がありそうな気もするが、それは後日明らかにされるのかもしれない。
また地球に戻ったら2万年経っていたという設定は話を面白くするためのものだからこれは物語上必要だろう。
本作のゴジラは、見た目は2014年のハリウッド版に近くどっしりと重厚感のある体格で、口から吐く青い光線の凄まじさは『シン・ゴジラ』版のゴジラを連想させる。
また「生命進化の頂点」という裏設定があり、地球上の生命体の中で最も大きくなり、圧倒的に長い寿命を持つ「樹木」に似た外皮を持たせることで、「世界樹」のように神格化する意図があるようだ。
圧倒的な強さを誇るゴジラと知力を尽くした人間との戦闘シーンはよく練られているし、見応えもある。
しかし、ゴジラを倒したと思ったら、それは元祖ゴジラから細胞分裂して増殖したゴジラ・フォリオで、2万年が経過して体高300m、体重10万トンに巨大化した元祖ゴジラが登場して主人公たちが絶望の淵に叩き落とされて物語は終わる。
本作を観るまでは3部作の第1章とは夢にも思っていなかったので、筆者には「ブルータス!お前もか!」の心境であった。
これはポリゴン・ピクチュアズの問題ではなく配給会社である東宝の問題である可能性が高いが、相変わらず3部作であることを積極的に広告しない姿勢には問題がある。
3部作とわかっていると観ない人は確実にいるので、観客動員数を増やすために表明しないのだろうが、全く釈然としない。
主人公のハルオ・サカキに『亜人』でも主役の永井圭の声を務める宮野真守を当て、エクシフのキーパーソンであるメトフィエス役には、『亜人』では戸崎優、『BLAME!』では主役の霧亥を演じた櫻井孝宏を起用しているので、ポリゴン・ピクチュアズ作品常連の声優を使っているなという印象を持った。
またエクシフ教を信奉する宗教集団でもあるエクシフ人を人類より高い位置に耳があり古代日本人のような角髪にした容貌にする一方で、ビルサルド人も額の筋肉感を強調しているのは、見た目ですぐに人類と区別がつくので映像上わかりやすい違いで良い。
なお人類がなぜ地球を捨てるまでに至ったのかを知ることができる本作の前日潭が『GODZILLA 怪獣黙示録』という題名で角川文庫から小説化されている。
1999年のカマキラスのニューヨーク出現から始まる各都市での怪獣被害や、エクシフ・ビルサルドの出現、1948年まで続く破壊神ゴジラへの人類の度重なる敗北などに対して、ハルオの父アキラ・サカキが目撃者にインタビューして聞き出した証言をそれぞれの出来事に関して章立てでまとめた報告書の形式を取っている。
表面的には難民・移民問題や有名無実化した国連の無能ぶりなどゴジラや他の怪獣によってもたらされた被害が述べられているのだが、実際は国際社会が抱える今日的な諸問題が浮き彫りとなっていてなかなか面白い。
本作のはじめで揚陸艇の爆発とともに運命を共にしたダイチ・タニやハルオの母のハルカの証言なども収録されている。
また怪獣たちは地球に害を及ぼす人類を駆逐する自然が生み出した脅威として描写されており、その中で究極の存在がゴジラになっている。
さすがに怪獣たちの中に正義の怪獣モスラの名前はないが、ビオランテやラドン、ヘドラなど歴代ゴジラシリーズで登場した怪獣たちの活躍?も読むことができる。
第2章の『GODZILLA 決戦機動増殖都市』ではビルサルドの開発したメカゴジラが登場しそうだし、あるいはモスラやキングギドラも今後登場するのだろうか?
ハルオを介抱していた新人類の少女に関する謎もおいおい解き明かされていくのだろう。期待したいところである。
3部作の第1章、序破急であれば序に当たるのが本作なので作品単体で評価をするのは正直難しいし、時期尚早のようにも思うが、全編CGアニメーション映画としての質が高いのは明らかだ。
ただ直近の『BLAME!』があらゆる面で文句のない完成度だったため、どうしても比べてしまうせいか本作の満足度は落ちる。