「REMEMBER」手紙は憶えている 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
REMEMBER
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「記憶」が鍵を握るミステリーは「メメント」を例に挙げるまでもなく数多くある。この「手紙は憶えている」は、認知症の主人公が登場し、彼の頼りない記憶を類寄せるような形で、物語が紡がれていく。これがなかなかうまく機能していて、サスペンスを上手く盛り立てていた。
ストーリーは連作短編小説のように、4人の標的を渡り歩く。その一人一人がチャプターになっているかのよう。さらに、その相手ごとにアウシュビッツの歴史の一側面がそれぞれ見えてくるような、そんな感覚があり、人間の業や罪深さや危うさみたいなものがドラマティックに描かれていて、ミステリーとしてだけでなく、人間ドラマとして残るものがあった。
「記憶」と一概に言っても、薄れてしまう記憶と決して消えることのない記憶があり、また無意識に蓋をして仕舞い込んだ記憶、というのもある。そういった種類の違う「記憶」という概念を上手く使って作った良質な映画だった。
クリストファー・プラマーがまた巧かった。記憶を失ってしまう演技も、記憶が蘇る演技も、記憶違いを信じ込む演技も、そして現実の中で行動する感情の演技も、すべてが素晴らしくて、物語の牽引者としての存在感と役者としての偉大さに感動すら覚えた。
ナチスのしたことの残虐さは、歴史的に根深い後遺症を残して、それは今も続いているのだということを改めて思う。映画を最後まで見て、原題「Remember」というシンプルなタイトルがやけに心に響いてきた。
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