「なにがあろうとも「忘れてはならない」」手紙は憶えている りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
なにがあろうとも「忘れてはならない」
認知症を患い、施設で暮らしているゼヴ・グットマン(クリストファー・プラマー)。
90歳になる彼は、一緒に入居した最愛の妻に数か月前に先立たれ、その妻が他界したことも忘れてしまうような情況にあった。
ただし、彼には、かつてアウシュビッツに収容され、家族を殺された記憶があった。
同じ施設で暮らすマックス(マーティン・ランドー)も同様の経験をしていた。
ふたりの家族を殺したナチスの看守が「ルディ・コランダー」と名を変えて生き延びていることを知ったマックスは、動けなくなった自分の代わりにゼヴに復讐を託す。
そして、ゼヴの記憶を補うように、復讐の要領を手紙に書き留めていた・・・
というところから始まるハナシは、その後、4人の容疑者「ルディ・コランダー」がいること、そのなかに復讐すべき相手がいることが判明してくる。
とにかく、異様な迫力である。
これは、ひとえにクリストファー・プラマーの名演による。
90歳という高齢の老人は、素早く動けない。
ひとつひとつの行動・挙動がゆっくりとならざるを得ない。
それが、70年の歳月をかけてでも、復讐を遂げたいという執念につながってくる。
これは、車いすに乗り、呼吸器をつけたマーティン・ランドーも、同じである。
さらに、容疑者を演じるのも、ブルーノ・ガンツ、ユルゲン・プロフノウ、ハインツ・リーフェンとこちらも高齢の名優たち。
中でも、出番は少ないながらも、同性愛者を演じたハインツ・リーフェンが、哀しい。
また、亡き父と同じくナチ信奉者となった中年男性が登場するエピソードは、かなり恐ろしい。
第二次大戦から70年以上も経ち、当事者たちは超高齢になってしまった。
過去の悲劇・人間が犯した罪は、なにがあろうとも「忘れてはならない」。
エンディングではじめて映し出される原題「REMEMBER」は、そういう意味だろう。
95分という短い尺ながらも、スリルとメッセージが効いた秀作である。