劇場公開日 2017年8月25日

「鎌倉と児童文学好きならお薦め」きみの声をとどけたい 猫シャチさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0鎌倉と児童文学好きならお薦め

2017年9月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

マッドハウスらしい、小規模公開ながらも隠れた良作と言った映画。ただし、この作品の良さって凄く伝えづらい・・誤解を恐れずに言えば、「何も考えずに素直に見れちゃう人」と「普通のアニメにいい加減飽きた年季の入ったオタク」向け。どちらにも属さない中間層にはちょっと厳しいかも知れません。

お話自体は児童文学と言っても差し支えないくらいオーソドックス。
キャラクターの行動も概ね予想の範疇であり、映画通が唸るような意外な展開はほぼありません。しかしこの「至って普通」の物語が、青木俊直氏の描く独特の線のキャラクター達と、新人声優達の生々しさを残す演技により、「普通だけど普通じゃない」空気を生み出しています。

作画的には線を減らして影をつけない「時をかける少女」等で用いられた手法に近い事をしていますが、輪郭線にハイライトの白を差して色を調整する事で、背景に馴染ませつつ立体的に、キャラクターの存在感を引き出しています。美術は「時かけ」で美術監督補佐を担当した橋本和幸氏が手がけますが、この作品、「鎌倉(風)の街」の実在感が素晴らしいです。鎌倉にしょっちゅう遊びに行く私から見ても、かなり再現出来ているなと思いました。

三叉路に立つ路傍の家や、ラジオ文化、針を落とすレコードに、T○Kのカセットテープ・・・登場するガジェットは懐かしいものに溢れています。それらが前面に出てノスタルジーを主張するのではなく、あくまでキャラクターに寄り添って作品を彩っているのが微笑ましい。

最後にちょっとした奇跡が起きますが、そこで感動する映画ではないと思うので、キャラクター同士の関係性を退屈と見るか、好意的に見守れるかが評価の分かれ目かと思います。あと1年早くても遅くても録れなかったであろう瑞々しい劇中歌は一聴の価値あり。

ちなみに、昨今のこの手の作品では男性キャラは排除されがちですが、
この作品には何人か男性キャラが出てきます。こいつらが何気にみんないいキャラしてるんです。
出番があると言っても、ちょろっとだけなのですが、その僅かな出番だけで「人となり」がちゃんと伝わってくるという・・。

この辺の演出力とさじ加減は、さすがベテラン、伊藤尚往監督だなあと思いました。

猫シャチ