「セシリアの心に刻み込まれるもの」プライズ 秘密と嘘がくれたもの とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
セシリアの心に刻み込まれるもの
リアリズムとかけ離れてもなおドラマティックな展開こそが映画と思っている人には、あわない映画。
日常を丁寧に積み上げていく手法が合う人にはお勧めします。
説明はありません。
最初は何が起こっているのか、どうして大人たちはこういうことをして、こういう表情をしているのか。母がセシリアに課す謎めいた約束。わけがわからないままに進んでいく。それはまるでセシリア目線の理解を追体験させられているかのよう。
軍事政権下。
緊迫感の中で大人たちは建前と本音を使い分けて生きていく。
荒れた海、殺風景な砂浜、鳴り響く不協和音。
だけどそんなこと子どもには関係ない。友達との会話、明るく響くはしゃぎ声。喧嘩。たわいのない(今と変わりない)日常。
友達を惑わせる嘘。嘘をついていないのに嘘つき呼ばわりされること。
そしていつしか複雑な様相を見せる。
子どもにとってはなんだかわけがわからないけど、大きなものに呑みこまれて、子どもの心が翻弄されていく。そんな不条理、やりきれなさが切ない。
こんな思いを子どもにはさせたくないと思う。
監督の半自叙伝とな。こんな生活で、監督の感受性が研ぎ澄まされていったのかな?
とにかく一人ひとりの描き方がきめ細やか。心のひだを表現するとはこういうことか。
子どもの演技は、設定だけ与えて自由に振舞わせたかと思うほど、自然。ある映画祭で、セシリア役のパウラ嬢は賞を受賞。
母の表情も、母の置かれた立場を知ってから鑑賞しなおすと、心がキリキリと痛くなる。秀逸。
時折観返したくなる映画です。
販促のキャッチコピー・予告は、この映画の主題からすると捻じ曲げられている。(「お母さんに褒めてもらえない」理由を知ると、みぞおちにズドンと来るけどね)そんな売り方しなければいけないなら、そっとしておいて欲しい。わかる人だけで共有して、隠し持ちたいと思うような宝物的な映画です。