「可哀想なハリソン」ブレードランナー 2049 Kjさんの映画レビュー(感想・評価)
可哀想なハリソン
メッセージ同様、ビルヌーブの映像の作り方は変わらず美しく、多くの未来像が提示されている。2019の様式を引き継ぎながらも、独自の未来世界を構築している。2019の30年後と現世界の32年後を混ぜ合わせることが求められるが、そこはよく納められているように思う。
ストーリーは2019よりも丁寧で長い。行間を読む手間は省けるが、奥行きはない。2019から2049に至る3つのストーリーを先出ししたのは過剰サービスかも知れない。
印象的だったのは、Kの記憶が事実であるか確認するシーン。呼び起こしている記憶映像を使わず、2人の演技だけで見せたのは良かった。ストーリー上でも要のシーン。
メッセージの時にも気になったのは、その映像美に対して、テーマ性が強く伝わってこない点。2019はレプリカントを通して差別意識といった問題点を省みながら、死生観という普遍的なテーマを強烈に意識させた。レプリカントが意識を持ち始めて生存を希求するのは今回も変わらず、従順に設計してもやはり同じでしたという結果は、この手の研究開発の限界を暗示しているのだろうか。酷い目にあったにも関わらず、性懲りもなくレプリカントに依存しようとする人間の愚かさを述べているのだろうか?
今回は、レプリカントが明確に主体になっており、レプリカントの創世記のようで、人間の葛藤は見えてこない。レプリカントが真に希求するものは何だったのか。種の保存と利他性に生き方を見出すものも、種としての進化を極める者もいたが、Kの動機はよく見えてこない。誰のためだろうか?義心なのかな。分かりにくい。対比的であるべきジョイやラブのキャラクターの持つ思想が少し薄いので余計に不鮮明であった。
何よりも終盤に、オマージュが過ぎたのか、なす術がないハリソン・フォードの姿を再度見せられると、「そこをもう一回やるか?」と不謹慎だが、笑いを堪えるのに苦しかった。お約束の罰ゲームじゃあるまいに、肝心のラストシーンまで引きずってしまった。