劇場公開日 2017年5月27日

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「この国の将来についてとても考えさせられた」ちょっと今から仕事やめてくる うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5この国の将来についてとても考えさせられた

2022年11月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

予告編の段階で、ほのめかしてあったことですが、福士蒼汰の正体が3年前に自殺した青年で、主人公青山のピンチに突然現れ、彼を救ってくれる理由と、その目的が映画最大の謎としてストーリーが進行していきます。

言ってみれば「おせっかい焼きの幽霊?」として登場し、不思議な力で青山青年の危機を救うというキャッチーな展開が、感動を予感させてくれたのです。

しかし、そこが非常に残念なポイントでもあるのです。
もっとはっきり言うと、ラストの種明かし。福士蒼汰の正体が明らかになる部分です。

映画の軸は大きく方向性を変え、現実の社会から、飛躍した第三世界へ転換してしまいます。ある意味で主人公が、ヤマモトのいる世界に取り込まれてしまったと解釈することもでき、本当のところ彼の救済、家族の救済には結びつくと思えないことです。

そこまで(主人公がちょっと会社を辞めてくるまで)は、非常に素晴らしい映画で、疲れて実家に戻った青山が、家族に癒されるシーンでは思わずもらい泣きしてしまうほどの感動でした。工藤阿須加のシンプルで芯のしっかりした演技には本当に感動しました。

ここから、私なりの妄想に入ります。

こうしてほしかったという映画の方向性の話です。
あ、ちなみに原作は全く見たこともありません。

「ちょっと、今から会社辞めてくる」というタイトルが示す通り、どこにでもあるブラック企業が舞台です。この組織は公共の福祉に明らかに反しています。辞めて当然でしょう。ですが個人的には、多少の理不尽や、ストレス、上司や人間関係の悩みはどこの職場にだって存在するものだし、うまく折り合うことが出来なければ、この主人公のような不幸な毎日を繰り返すことになって当然だと考えます。
ですが、この会社の非道ぶりは分かりやすく誇張してあり、主人公は策略によってハメられて、本来の能力を発揮することなく体調を崩し、自殺を考えるほど疲れています。
そこに、映画的「作劇」の手法がとられているのだから、観客が期待するのは「作劇」上のオチ。つまり、この会社が分かりやすく転落するさまを描き出すことです。

そこは、ダメ上司の吉田鋼太郎が腹いせに蹴飛ばしたデスクで脚をケガする程度の、、、主人公をハメた黒木華が自らの行為を悔いて心から謝罪する程度の落とし前では済まされるものではありません。
例えば、青年青山が一念発起して起業した事業で成功を収め、このブラック企業に手痛いしっぺ返しを喰らわすとか、直属の上司のさらに上の人事から、救済の手が差し伸べられ、このダメ上司が社会的に抹殺されるとか、いくらでも考えられるでしょうに、この作品では、「避難」という手段で事態が収まってしまいます。

そして、その「避難」という救済の描き方が、非常に問題をはらむ、ある意味では今後の日本という国を暗示するようなリスクを抱えているのです。

ブラック企業に命までからめ取られるなんて、もちろんあってはいけないことです。この青山青年の決断は誰にでも起こり得ることでしょう。よく考えられていると思います。でも、真の意味で、救いが必要なのは、青山青年と机を並べて仕事をしている同僚や、先輩たちです。彼らは日々、きついノルマに追い立てられ、それこそ自殺すら考えるほどにみな追い詰められています。

主人公の退職に絡めて、張り詰めた緊張状態の崩壊を描き出すことで、彼らも救済されるラストにつながったはずです。

残念ながら、この映画では、その結末はとても幻想的で美しい「逃避」で終わっています。共感できる人はそれほどいないのではないでしょうか。

もし、誰もがこの主人公に共感し、「自分探し」の旅に出かけてしまったら、この国は滅びてしまうでしょう。

そんなことまで考えさせられる、私にとって特別な一本になりました。

2017.6.18

うそつきカモメ