「現代劇の日本映画の流れが変わったら」22年目の告白 私が殺人犯です テオさんの映画レビュー(感想・評価)
現代劇の日本映画の流れが変わったら
間違いなく分岐点の一つと言われるであろう作品だと思う。(殺人の告白も鑑賞済み)
・誠実で適切に機能する暴力描写
・「バズる」という言葉が流通した現在でも強度を保てる、現代風俗を正面から切り取ったモンタージュ
・「藤原竜也のクズ役」という、長年日本映画から失われていた役者の文脈を公開前から打ち出した宣伝
・BGMが無くとも耐えられる役者の演技とセリフ回し
いずれもハリウッドや韓国映画では普通に出来ることが何故?という声が聞かれて久しいが、入江監督と製作は見事に作品で回答を出してくれたと思った。
(今まで多くは制作費や観客の成熟度を言い訳にした回答ばかりだった)
それ以外でも、ドアノブやガラスに映り込む顔のカット、カメラが移動してからのフォーカスの切り替え、緊張感を保つための長回しなど、計算された映画的演出が続き、非常にリッチな映画になっている。
良い点をあげればキリがないが、特に素晴らしいと感じたのは2点。
1.後半、一番嘘が出やすい(突っ込みが入りやすい)シーンに黒田大輔、坂田聡などの実力派をキャスティングして説得力を持たせていたところ
2.夜の駐車場(アウトロー?)、TV局の混乱(テロ、ライブ?)、別荘での監視カメラ(ゴーンガール?)など、様々な映画からの引用があると思われるが、どれも引用の為の引用ではなく効果的だった
(ジョーカーゲームでは少しいやらしく感じてしまった。)
それでも星4つなのは、悪役演出に若干の不満が残ったため。
勿論、近年日本映画にありがちなサイコパス描写は極力避けて演出されてはいるし、セリフ一つ一つも計算されていた。
だが、あのタイミングでオペラを流しながら登場されると、どうしても記号的(極度に神経質で潔癖症な完璧主義者)な悪役の印象に引っ張られてしまう。
例えその人物の教養レベルに合致した音楽だとしても。
なので、できれば同じ伊藤英明が出ていた悪の教典でのマックザ・ナイフや、近作でも(悪役ではないが)コンサルタントでのザ・ケミストなど、予想を裏切る音楽を鳴らして、悪役の異常性を際立たせてほしかった。
あの車内のシーンはある意味悪役の初登場のシーンであり、謎解きをほぼ終えてこれから打倒すべき敵と対峙する前フリのシーンでもあったはずだ。
残念ながら私にはあのオペラはダースベイダーのテーマと同じに聞こえてしまい、その後のサスペンス要素への興味を維持するには至らなかった。
とは言えラストの切れ味は凄まじく、エンドロール中のオマケも、鑑賞後に観客に倫理観を問わせる上でとても効果的であった。
個人的には、近年の原作付の日本のサスペンス映画では、ソロモンの偽証、ヒミズと同等かそれ以上の傑作だと感じた。