「解釈と感想が変化する映画」ナラタージュ ことばさんの映画レビュー(感想・評価)
解釈と感想が変化する映画
今日までで5回見ました。
心理描写があまりなく(特に葉山先生)、毎回感じ方が変わる、不思議な映画です。
一度目見たときは、すぐには受け止めきれず、強すぎる衝撃に心を抉られ、真夜中に涙が止まらなくなりました。
二度目見たときは、泉(有村架純)の純粋さや無防備さが切なくて、心が壊れそうになりました。
三度目見たときは、葉山先生(松本潤)が自己肯定力があまりなく、自分を助けてくれる泉に対する執着が、狡くて痛々しいと思いました。
四度目見たときは、小野君(坂口健太郎)が、どうしてあんなに暴力的になれるのか、理解したくなりました。
五度目見たときは、泉は葉山先生を、葉山先生は泉を、どうして惹かれていくのか、あれほど深みに嵌まるのか、それが苦しくなりました。
主要キャラクターたちは、はっきりいって、かっこよさや綺麗さはありません。
むしろ、人としての欠陥がよく見えるように描かれています。
最初見たとき、私は葉山先生が好きになれませんでした。狡くて、立場が悪くなると謝る。結構ムカつきますよね?
でも、見れば見るほど、それは自己肯定力を凄く低く持ってるからだと思ったとき、私は何となく自分に近いと感じて、葉山先生を理解できた気がします。
狡いことにはかわりはありませんが、無力感で苛まれているときに、自分を頼ってくれる、好きでいてくれる人が現れたら、近くにいてほしいと思います。
でも、後ろめたさがあるから、望みは口にできない。
問い質されても、泉に離れて行って欲しくないから、真実を言えない、都合悪くなると黙ってしまう。ごまかすために、謝ってしまう。
「行かないで」「側にいて」「忘れないで」が態度にしか出せない。
30も過ぎて、なんじゃい!という気持ちも湧かないわけではないてすが、年令が大人だからって、気持ちも成長しているかと言えば、そうではないでしょう。
主観的に見てたらわからない。だから泉にはわからない。
怒るのも当然です。
葉山先生はいつも、泉を離さないようにするのに、心に近づけさせはしないのだから。
泉も高校生の時は、純粋に年令相応の可愛らしい恋をしていただけだったのに、卒業式の日に壊される。それがなかったら、泉の恋は可愛らしいまま終わってたと思う。それすら、葉山先生は許さない。
だからこそ作品中、泉は急激に大人になっていってる気がします。その表情は壮絶。
そうじゃないと、渡り合えないからそうなるんでしょう。特に葉山先生を送る車の中から家のシーン。有村架純の演技力が凄いと感じました。
小野君はほんとに可哀想な人です。
想いが届いた(と思った)のに、結局泉は葉山先生ばかり見ている。
自分と付き合ってるのに…という気持ちがずっとある。
自分だけを見てほしいから、どんどん束縛が強くなる。
見ててしんどい。
泉が小野君に従うのは、それが「好き」ということだと思ってるからなのか、葉山先生への想いを蓋して無理してるから、形だけ整えようとしてるのか。
私ここは、毎回解釈変わるんですよね。
泉と葉山先生を見ていても辛いけど、泉と小野君を見てるのも辛い。一見平穏でも、幸せに見えないから余計に。
そりゃ泉は葉山先生を選ぶよ。
ちなみに小野君絡みのシーン(直接じゃないけど)で好きなのが、再会時に葉山先生に「元気?」と聞かれた泉は「それなりに」と答えるのに、小野君と付き合ってからは「とても」と答えてる。
このシーンの対比、すごいんですよね。泉は小野君がいるから、強気に出れてるし、葉山先生に対して当て付けてる。表情も恐い。
もう惑わされない、という決意。
このあとに小野君の狂暴性が出てくる伏線にもなってるので、個人的にはインパクトあって、好きです。
葉山先生は最後には想いが重なったのに、泉との別離を選ぶ。
葉山先生は泉に対する想いを「恋じゃなかった」と、語るけど、これこそ人によって解釈が全く違ってて。
私は「葉山先生があえて『恋』という名前をつけなかった」と解釈しましたが、色んな人がいて、他の人の感想を見てると面白いです。
この辺りまで来ると、切なさに心が潰れそうになる。
難を言えば、柚子の描写をもう少し詳しくやってほしかったかな。
伏線はあるとはいえ、柚子の苦しみや絶望が、非常に伝わりにくい。本筋には、要は泉と葉山先生を引き合わせるという役目は出来てるからいいんだろうけど、そのあとの新堂くんの慟哭シーンがあるだけで、あっさりしすぎてやしないだろうか。
それと出来れば、エンドロールが終わるまで席にいてほしい。
主題歌はRADWIMPSの野田洋次郎さんが書き下ろしたもので、映画に添って書かれたそうです。
その詞は泉の想いが昇華されていくようで、美しく真っ白な世界を見ている気持ちになります(実際は真っ黒で白文字のスタッフロール)。
泉の最後の笑顔と完璧に似合ってる。
知らないかたは、詞だけでもちょっと調べとくといいかも。
毎回歌で泣いてます。
私には、この先この映画よりも心を動かされる映画に出会えるとは思えない。
「今」の私に、非常に心を打つ映画でした。
これが、行定勲監督が構想を起こした12年前とかに見ても、ここまで思わなかったと思います。
むしろ、いい映画だと思ったかも怪しい。
だから今はわからなくても、数年後みたら、違う感想があるかもしれませんね。