「あなたをちゃんと想い出にできたよ?」ナラタージュ ゴーゴさんの映画レビュー(感想・評価)
あなたをちゃんと想い出にできたよ?
過去に苦しい恋愛をし、自分で終わりにすることができた人が、何年か経ち、それでもまだ固まってる心を、ゆったりとほぐしてくれるような映画だと感じました
終わらせることができず現在進行形の人や、終わらせた直後の人には適さないでしょうし、ましてや経験のない人は退屈なだけだと思います
本気で人を好きになったことがある人は共感できると思いますが、その気持ちを自分でコントロールすることは難しく、相手に配偶者がいる場合、それは結果的に不倫ということになります
恋に恋するとか、禁断の恋をしている自分に酔うとかではなく、限界を超えたから突き進んでしまうのであって、不倫をしようと思って配偶者のいる人に近づいていく人はいないと思います
この映画は、余白が多く、自分に置き換える時間が十分にあります
不倫は、誰にも相談できないため、自分ひとりで収めなければなりません
精神状態を保てるように封印せざるを得なかった箱をゆっくりと開けさせられ、当時の心情がかさなってくる感じです
「恥ずかしいほどあなた色してた」真っ直ぐな気持ちと行動は有村さんの柔らかい雰囲気から可愛らしく出ており、幸せな気持ちにさせてくれます
妻の心を壊してしまったため、その気持ちをそのままストレートに受け止められず、自分の想いを押さえてしまう松本さんの目の表情は、目力の強い人だけにより一層強く伝わってきます
「平気なわけないだろう」は、唯一気持ちを表に出したとこでしたし、だからこそその目力は、強烈でした
路面電車を見送るところは、引きの絵のため、松本さんの表情がはっきり見えませんが、一番の無表情だったと思います
勝ち取ったはずなのに、不安と焦りを抱えた小野(坂口)君の心情が、随所に表れており、押さえきれず爆発するまでの葛藤と、更に焦りが増す悪循環は悲しく、工藤(有村)さんの中の葉山先生(松本)への想いをどうにもできない無力感がでています
小野(坂口)君には、工藤(有村)さんの夢を終わらせることはできませんでした
当事者が続けようと思えば続けられるのに、自分で終わりにするというエネルギーは、大変なものです
精神状態を保つために自ら箱に封印したものが多かれ少なかれあると思います
それほど、自分で終わりにすることは難しことであり、気をしっかり持たないと、工藤さんのように、もとに戻ってしまいます
この映画は、その箱を開けさせられるんですよね
Adieuの歌う「ナラタージュ」の歌詞には、「正しい夢の終わりかたなんて自分だけが決める」というのがあり、その後に続けて「あなたをちゃんと想い出にできたよ」というのがあります
これがエンドロールで流れるのですが、映画も終わり、回りも明るくなるので、箱から引っ張り出したものをまた箱に戻すことになります
当時は、とても心の表に出せないから封印し、自分からは決して出すことはなかったものを出してくれ、一旦はしまうものの、映画と歌の余韻が残っているため、一人になれば何回か出し入れすることになります
そのたびに整理し、想い出に代えるように働きかけてくれてるんだなと思いました
それができたからこそ、本当の意味で前に進んでいけるし、立ち止まってないで前に進まなきゃダメだよと言ってくれてる気がしました
雨が降る日には見つめる懐中時計、止まったままの懐中時計が動き始めたとき、想い出に出来たのかも知れません
映画って、こんなことができるんですね
懐中時計を動かしてくれるようなことがあり、または自分で動かして、ちゃんと想い出にできたら、もう一度、映画館で見てみたいです
ke_yoさん、コメントありがとうございます
先日、WOWOWで放送されていたのを観ましたが、ゆったりとしているナラタージュはLINEなどの邪魔が入らない映画館で観る方が断然いいと感じました