「ライトニング・マックィーンは永久に不滅です。 そんなんいきなり言われても困るでしかし。」カーズ クロスロード たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
ライトニング・マックィーンは永久に不滅です。 そんなんいきなり言われても困るでしかし。
乗り物が生き物の様に暮らす世界を舞台にしたレース・アドベンチャー映画『カーズ』シリーズの第3作。
ピストン・カップで7度の優勝を果たすなど、今やレース界のレジェンドとして国民的スターとなったマックィーン。しかし、次世代車の台頭によりその栄光に翳りが見え始める。特に天才ルーキー、ジャクソン・ストームの活躍は凄まじく、彼にライバル意識を燃やすマックィーンはその焦りから大クラッシュを引き起こしてしまう…。
○キャスト
ライトニング・マックィーン…オーウェン・ウィルソン。
次世代の天才ルーキー、ジャクソン・ストームの声を演じるのは『ソーシャル・ネットワーク』『君の名前で僕を呼んで』のアーミー・ハマー。
再起を目指すマックィーンをサポートするトレーナー、クルーズ・ラミレスの日本語吹き替えを務めるのは『ちはやふる』シリーズや『万引き家族』の松岡茉優。
シリーズの生みの親、ジョン・ラセターが監督を降板。ストーリー・アーティストとして過去2作に携わって来たブライアン・フィーがその後任を務める。
師・ラセターが弟子・フィーに後を継がせた様に、本作品内でも「世代交代」がテーマとなっている。
『1』(2006)では新進気鋭のルーキーだったマックィーンもすっかりベテランに。寄る年波には勝てず、次々と登場してくる新人たちの後塵を拝するようになった今、現役を続行するのか引退するのか、その選択を迫られるという物語で、これまでもそうだった様に、今回も完全にラセター自身の立場が反映されている。監督を降りたとはいえ、やはり『カーズ』シリーズはラセター個人の所有物なのだ。
ロートルのチャンピオンとハイテクを駆使する怪物ルーキーという構図は、言うまでもなく『ロッキー4』(1985)からの引用。新人が最新テクノロジーでトレーニングを行う一方で、チャンピオンが昔ながらの方法で心身共に鍛え上げるという対比はもはやこの手の映画のお約束ですな。
一線を退いたチャンプが才能溢れる若き新人を導くトレーナーになると言うのも、まぁやっぱり『ロッキー』シリーズ(1976-)を思い出させる。スポーツ選手の栄枯盛衰を描こうとすると、どうしても『ロッキー』の焼き直しになってしまうが、これはもう先駆者が偉大すぎるが故、仕方のない事なのでしょう。
映像面の素晴らしさは言に及ばず。その時代最高のCGアニメである事は間違いない。ピクサーが制作に携わっていないスピンオフ『プレーンズ』シリーズ(2013-2014)と映像を見比べてみると、本作の凄まじさがよくわかる。
特に注目して欲しいのは路面の表現。アスファルト、砂浜、泥道、ダートと様々な状態の路面を走行する訳だが、その轍や汚れのつき方のリアルさに驚愕。あまりに自然すぎて、アニメーターがわざわざ映像を作っているのだという事を忘れてしまう。一体どれだけの手間暇をかけて制作に取り組んでいるのか、それを考えるだけであまりのハードさにゲロ吐きそうになります🤮
一方で、お話に関してはちょっと飲み込めない部分が多すぎる。
マックィーンが時代に取り残される、これは良い。どんなスター選手だっていつかは終わりが来るのだから、そこを描くというのは何も間違っていない。
自分のバトンを後輩に託す、これもまぁ流れ的に自然である。これ以外の展開で物語を〆ようとすれば、あとは「明日のジョー」(1967-1973)ルートしかない訳だが、それは流石にディズニー/ピクサー作品では無理だろう。この終わり方にも異論はない。
問題は、そのバトンの渡し方。
最強のライバルに勝つ、あるいは負ける。そのどちらでも別にいいんです。勝ち負けは問題じゃないと言うことは『ロッキー』で散々見て来たし。大事なのはファイティング・ポーズを取ることなのです。
しかし、今作のマックィーンは真っ向からライバルと戦う事を避けてしまった。いや、じゃあ今まで観てきた特訓はなんだったんだ?
世代交代を描きたいのなら、しっかりと戦い抜いた後でやれば良い。あるいは、冒頭の大クラッシュでマックィーンを引退させておいて、失意の只中にある彼が才能あるドライバーの育成に携わる事で再生してゆく様を見せれば良い。あんな土壇場で「君が走るべきだっ」って言われたら、ラミレスも観客も困るでしかし!
終盤の展開で観客の予想を裏切ったつもりなのかも知れないが、裏切ったのは予想じゃなくて期待だからなっ!?何でもかんでも裏をかけば良いってもんじゃない。ラセターはあと100回『ロッキー』シリーズを『1』から『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)まで見直すべしっ!🫵
他にも色々と気になる点は多く、例えばドックの師匠であるスモーキーというキャラ。なんか急に「そうかスモーキーに会いに行けばいいんだ!」ってなったけど、ドックに師匠が居たとかそんな話、これまでのシリーズで出てきた事ありましたっけ?急にそんな展開になったので、なんかすっ飛ばしたのかと思っちゃった。
そもそも、ドックって60年くらい前に活躍していたレースカーなんですよね?そのお師匠様って、スモーキーは今何歳なんだ…?これを考え始めると、『カーズ』ワールドの加齢とか寿命って一体どういうシステムになっているんだ?とかそういう事が気になって仕方がなくなってしまう。この世界では100歳以上は当たり前、ドックは早死にだった、そういう認識でOK…なのか?
なんか新オーナーのスターリングさんが悪者みたいに扱われていたのにも違和感。誰の目にももう勝つのは無理なマックィーンに1レースの猶予を与えてたし、この人普通に良い経営者じゃない?そりゃあの土壇場で勝手にレーサーを変更されたら、誰だって戸惑うだろう。どう考えても、あの場で非常識だったのはマックィーンですっ!
一番気になったのはラスト。結局マックィーンが引退しないってどういう事よ!?選手もコーチも両方やるって、そりゃ流石に欲張りすぎだよ〜。
勝負はさせないが引退もさせないこの中途半端な終わり方に、脚本の迷いが表れている様な気がする。
昨今のディズニーにありがちな、「ポッと出の女性キャラクターを活躍させる為にシリーズの主人公を踏み台として扱う」という、間違ったガールズ・エンパワーメント映画。本当にレーサーになりたかったら、一番下のランクからコツコツ戦績を積み重ねて大舞台まで登り詰めんかいっ!!
まぁ自分は別に『カーズ』ファンじゃないのでこの展開にそこまで不快感は覚えなかったのだが、生粋のファンは今作をどう受け止めたのだろうか。
完全に無かった事にされた『2』(2011)よりは流石に面白いし、レース映画に原点回帰した点は好ましい。とはいえ取立てて騒ぐほどのものでもないというのが本音。まあでも考えてみれば、『1』からしてそのくらいの温度感の作品だったわ。急に『3』で大傑作になる筈もないか。
本作にはがっかりしたが、ピクサーはこの後『リメンバー・ミー』(2017)を発表。これはマジで『トイ・ストーリー3』(2010)と並ぶピクサーの最高傑作のひとつだと思う。もしかしたら、こっちに注力するがあまり、本作の制作がおざなりになってしまっていたのかも。偉大な後継作の為の踏み台になってくれたのであれば、本作には感謝しかない。
※日本語吹き替え版は、芸能人を起用しているが決して悪くない。ラミレスを演じる松岡茉優は土井美加さん系の声質なのでディズニー映画にはぴったり。また、ストームを演じた藤森慎吾はまさにハマり役と言った感じで違和感ゼロ。やはりピクサーの声優選びは上手いっすね☺️
