「キャンカーマンが消える時」ソムニア 悪夢の少年 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
キャンカーマンが消える時
まだ幼い息子をバスタブの溺死事故で亡くしたジェシーとマークの夫妻。ジェシーは同じく子供を亡くした親たちのグループセラピーに通うほど立ち直れずにいる。
夫妻は養子を迎える事に。8歳の少年コーディは3歳の頃に母親を亡くし、以来里親を転々。おとなしい子だが、寝ると“キャンカーマン”が食べに来るとなかなか寝つこうとしない。
そんなある夜、謎の蝶々と共に夫妻の前に死んだ息子が現れる。すぐ姿を消すが、以後も時折現れる。限ってコーディが眠っている時に。
それはコーディのある不思議な能力が関わっていて…。
コーディは夢を現実化させる能力を持つ。
蝶々は、コーディは夜寝れない時に蝶々の図鑑を見ている事が多い。
死んだ息子は、夫妻がある時写真を見せていた。
その記憶が朧気ながらも現実化。
息子は生き返った訳ではない。ホログラムのように浮かび上がるだけ。
それでもジェシーは…。また息子に会いたい為に、コーディに亡き息子のビデオ映像などを見せる。
すぐ消えてしまわないよう、コーディの飲み物に睡眠薬を…。
マークはあの子を利用しているだけと咎める。が、ジェシーは罪悪感を感じつつも、亡き息子に会いたくて…。
夢の現実化であってもまた息子に会えるのなら…。
子供を失った親の悲しみと喜びも分かる。
が、コーディはこの能力が原因で里親を転々とした。と言うのも、子供の見る夢は楽しい夢だけじゃない。子供はよく怖い夢を見る。それも現実化。
キャンカーマンがそれ。現実化してコーディの周囲の人々を襲う。
ジェシーはコーディの悪夢の原点、過去を知る…。
『ルーム』で注目されたジェイコブ・トレンブレイくんのその直後の出演作。
可愛らしさもたっぷりだが、一癖ある役所を実力充分に発揮。
夫妻役のケイト・ボスワースとトーマス・ジェーンも好演。
悪夢の原因は、まだ幼い頃の実母との死別。
癌を患う実母は抗がん剤で髪が抜け、みるみる痩せ細り…。
その姿と癌(キャンサー)の覚え違いで生まれたのが、キャンカーマン。
アメリカの何かの都市伝説かと当初は思ったが、キャンカーマンの正体は、母親を失った幼い子供の恐怖と悲しみの具現であった。
子供にとってそれは何より怖いもの。
どうすればそれを乗り越えられる…?
新たな温もりや愛が必須。
ジェシーはコーディにおとぎ話を語ってやる。
母親が子供に聞かせ寝かし付けるかのように。
自分を受け入れてくれる“ママ”として、そう呼ぶ。
怖い夢が新しい優しい夢となって。キャンカーマンは消えた。
本作が不気味な怪物が襲い来るだけのホラーだったらタイトルは“キャンカーマン”だったであろう。
しかし本作はただそれだけじゃない。ファンタスティックな要素(蝶が現れるシーンは幻想的)、悲しみや感動も滲ませる。
勿論ホラーとしても。キャンカーマンのビジュアルや恐怖演出は、ホラーの俊英マイク・フラナガンが腕を振るう。
なかなか良質のホラー・ファンタジー。日本未公開が勿体ない。