「こまめな電球交換と根暗な友達にご注意を」ライト/オフ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
こまめな電球交換と根暗な友達にご注意を
『インシディアス』『死霊館』のJ・ワン製作のホラー。
監督は『アナベル 死霊館の人形』の続編も監督するという
新鋭デビッド・F・サンドバーグ。
暗闇の中にだけ現れる怪異に脅かされる一家の姿を
描いた本作。元ネタはYouTubeの短編動画だそうだし、
「光の明滅に合わせて怪異が突然目の前に――」という
演出自体も様々なホラー映画で瞬間的には用いられてきた
ものではある(劇場版『呪怨2』とか)。だがそれでも、
「暗闇を自在に行き来できる怪異」という1アイデア
のみでここまで話を引っ張った手腕はなかなか。
なお、似た設定で『黒の怨』という作品もあったが、
やっぱ怪異は人間の姿をしている方がずっと怖いね。
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『真っ暗闇に誰かいる』というのは、
人間にとって恐らくは殆ど原始的なレベルの恐怖。
“暗闇はすべて危険”という設定のお陰で、この映画は
もう画面のありとあらゆる暗闇が怖い。
背後の暗闇が、扉の奥の暗闇が、ベッド下の暗闇が怖い。
日光が差し込む昼間のシーンでも、今度は日蔭が怖い。
上映後に後を引き摺るような怖さまでには至らないが、
上映時間中はしっかりと怖がらせてくれる。
真っ暗闇で展開されるクライマックスも、
ろうそく、手回し式懐中電灯、車のヘッドライトなど、
なんとも心許ない明かりを使うあたりが緊張感を煽っていて
ニクいし、ブラックライトで反撃に出る展開も盛り上がる。
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主演のテリーサ・パーマーは毎度ちょっとスれた役が
似合う美人さんだが、今回も心を病んだ母親との関係に
悩む主人公を好演。過去に母を見捨てた事が負い目なのか、
あるいは母に守ってもらえれなかったという想いからなのか、
誰とも親密になりきれずにいる主人公レベッカ。
本作はそんな彼女が、母親やかつての自分と同じ恐怖に苦しむ
弟と向き合う事で過去を乗り越えるドラマにもなっている。
母親ソフィー役マリア・ベロもグッド。
神経衰弱ギリギリの状態になりながら、それでも
最後に母親の役目を果たした彼女の末期の台詞と
ささやかな笑顔に胸を打たれる。
あのラストで母娘は、お互いがお互いに果たせ
なかったことをやっと成し遂げられたのかも。
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ただ、物語の時系列に曖昧な点が多い為、
イマイチ腑に落ちない点もちらほら。
・弟はあの齢になるまで怪異に気付かなかったのか
・主人公、弟、継父の付き合いはどの程度のものだったのか
・“ダイアナ”はいつ頃からソフィーに憑いていたのか
(子どもの頃から憑いていたならそもそも
彼女はソフィーの結婚など許すだろうか?)
などが疑問として浮かんだし、終盤につながる要素として
主人公が実家を出た経緯とその時の母とのやり取り、
主人公と実父との関係についてはもっと触れてほしかった。
“ダイアナ”についても今ひとつ輪郭がハッキリしないが、
まあ、怪異の正体があまりハッキリし過ぎても
かえってつまらないものだし、そこは好き好きかな。
これくらいの塩梅でも構わないかと個人的には思う。
あるものが存在すると信じることは、その
あるものがこの世に存在する事を是認すること。
“レベッカ”は誰かに存在を信じ続けさせることで
この世に存在し続ける魔物だったのだろう。
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アイデア一本勝負だが演出のバリエーションは豊か。
上映中は目を開けているのが億劫になるくらいに怖いし、
家族のドラマをしっかり描いている部分も好みだ。
81分という短めの上映時間も見易くムダがなく、
平均以上の出来のホラーに仕上がっている。
観て損ナシの3.5判定で。
<2016.08.27鑑賞>
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余談:
ブラックライトでダメージを与えられないなら
“ダイアナ”が終盤のんびり襲撃してた理由は謎だし、
そもそも明かりが点いてる場所は移動できないって
ことは、ライトを点けたり消したりするたびに
少しずつ前に進む事もできない気がするのだけど、
まあそんなのは障子の枠を指でなぞって「あらあら
サチコさん、ここに埃が残っているわよ」とか言う
小姑みたいなネチネチした小言なので無視してください。