「高倉健リスペクトがこめられた、昭和レトロな日本映画」マンハント Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
高倉健リスペクトがこめられた、昭和レトロな日本映画
"鳩"が飛ぶ! チャン・ハンユーと福山雅治が手錠で繋がれたままで変形"2丁拳銃"、まさしくジョン・ウー作品の様式美ここにあり。
故・高倉健さんの中国における知名度と影響力の高さを思い知らされる作品である。
"福山雅治×ジョン・ウー"なんて、いかにも日本の広告代理店のヤラセかと思ったら、純然たる中国映画・・・。
高倉健主演「君よ憤怒の河を渉れ」(1976)のリメイクである。本来は、西村寿行の原作小説があるのだが、本作は中国映画界による自主的なリメイクであり、名匠ジョン・ウー監督がすすんでメガホンを取ったに等しい。
「君よ憤怒の河を渉れ」は、中国では、文化大革命直後の1979年に、初の海外映画として大ヒット。国民的スターとして高倉健の人気を不動のものにした作品であり、2014年に高倉健さんが亡くなったときには、中国国内でニュース速報が流れたほか、中国中央電視台は25分の特集を組んだという(出典:Wikipedia)。
そして、これはジョン・ウー監督による、"昭和レトロな日本映画"の再構築でもある。
そのオマージュは全編にわたっている。例えば、ヤグザ映画や日本刀アクション、日本の刑事ドラマ的なシーン、御輿とお祭、桜舞い散る春景色、北海道的な広大な風景の別荘地、単線のローカル鉄道・・・などなど。中国映画でありながら、日本の文化や"高倉健"映画へのリスペクトがものすごい。
むしろ中国人ウケする日本の描写がビミョーだったりもする。たとえば、製薬会社のパーティーで、出席者が興じるダンスが"盆踊り"のような"パラパラ"なのが笑ってしまう。
日本映画好きといえば、クエンティン・タランティーノ監督も「キル・ビル Vol.1」(2003)で、日本映画をオマージュしたシーンがあったけれど、ガイジンから見た"日本映画っぽさ"は共通したニュアンスがある。
本作は、無実の罪を着せられた男とそれを追う刑事の友情物語だが、高倉健が演じた杜丘(もりおか)検事が、本作では国際弁護士に変更されているほか、設定が大きく変更されている。また原田芳雄の矢村刑事役を、福山雅治が務める。ちなみに主人公の名前"ドゥ・チウ"は、漢字表記では"杜丘"になるというトリビアも。
しかしストーリーに特筆すべきものはなく、大部分は、"刑事ドラマあるある"だ。
"過去の事件が心に影を落とす"主人公刑事だったり、"同僚の警官はすでに買収されている"。"警察バッチを取り上げられ、無断捜査に踏み切る"などは前提事項。福山雅治と桜庭ななみの相棒設定は中途半端だし、新薬開発を巡る訴訟事件などの設定説明は、大胆に省略されている。なので観る側が相当の情報補完しなければならず、とにかく映画としては不完全だ。
福山雅治をはじめとする俳優の熱演と、ジョン・ウーの立派なアクション様式美がなければ、平凡で単調な作品に沈んでしまったかもしれない。そういう意味では、多くの制限を受ける日本ロケの作品でも、頑張りようがあることを証明している。
さらに残念なのは、日本人キャストのアフレコが気になる点。リップシンク(セリフと口の動き)のズレが激しく、これなら全編中国語のまま、日本語字幕のほうがマシである。日本語と中国語で会話が成立してしまうのは、やはり不自然である。
冷静に見ると、近年の中国マネーによるハリウッド映画の粗雑なコピー乱発に、日本映画の代名詞である"高倉健"も巻き込まれてしまった。結局、ジョン・ウー監督も、ジャッキー・チェンのように餌付けされ、尻尾を振っている。福山雅治に至っては、もらい事故である(リーアム・ニーソンと同じ)。
関係ないが、"僕らの日本製トランスフォーマーを返せ!"と叫びたくなる。
(2018/1/9 /ユナイテッドシネマ豊洲/シネスコ/字幕:水野衛子)