劇場公開日 2017年8月26日

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「誰もが「考え込みながら」劇場を出る」幼な子われらに生まれ リュウシグさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0誰もが「考え込みながら」劇場を出る

2017年9月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 誰の言葉だったか「映画とは答えを提示するものではない。観る者に、考えさせるのが本当の名作だ」という名言があるが、まさにその意味で、この作品は「真の名作」だと言える。“家族”という普遍的なテーマに加えて、全てのシーンのリアリティが高いため、観る者がそれぞれの立場から、そこに込められた意味を考えてしまうように出来ている。私には、子どもがいないが、浅野忠信演じる父親が、娘から拒絶されるシーン他、数々の場面で「自分だったら、どんな風に応えるだろうか?」と考え込んでしまった。
 演技については、即興的な手法を取り入れたことが成功していることは、すでに多くの人たちが語っている。ドキュメンタリー出身の三島監督ならではの演出として賞賛されているが、この監督は画作りもとても上手い。それは、NHKにいた時からそうだったし、これまでの映画作品全てにおいて映像のクオリティが高い。今回も、冒頭の不思議な三色から引き込まれるが、モノレールの運転席から撮ったような外廊のドーリー映像や、観覧車を空中から観たような俯瞰ショットなど、随所に「不安」を感じさせるカットが挿入されている。
 また、舞台設定や状況設定も優れている。浅野忠信が働く場所は、IT技術にコントロールされていて、住んでいる団地も(実際にどうなのかは別として)斜行エレベーターにのって自宅へと運ばれる。つまり、自宅以外の場所の、ほとんどが人工的、無機的なのだ。そのため、自宅のドアを開けた瞬間、息苦しくなるような“人間臭”のようなものを感じてしまう。そこが、必ずしも「居心地の良い場所ではない」と浅野が感じている事が、こちらにも伝わってくる。
 少し穿った見方かもしれないが、私は一種の「恐怖映画」のようにも感じた。そこら辺のホラー映画では感じられない、「リアルな怖さ」が、娘とのやりとりや、田中麗奈演じる妻とのケンカの場面から滲み出ていた。上記の演出による高い演技力や巧みなカット構成が、人間が心の奥に、潜在的に抱えている「家族崩壊」の不安を、刺激してくるから「怖い」のだと思う。
 この作品の普遍性についてはモントリオールで、日本人ではない人々から高い評価を得たことで、客観的に証明された。純度が高いのだ。
 ハッピーエンドでもなく、絶望的な悲劇でもなく、誰もが「考え込みながら」あるいは、自分の家族について、あれこれ想いを巡らせながら劇場を出る。「家族とは?」簡単に答えは出ない。人生の真理の一端に触れているこの作品は、間違いなく三島監督の、代表作の一つになるだろう。

リュウシグ