「共に生きていく」幼な子われらに生まれ U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
共に生きていく
見応えしかなかった。
ある世代には身につまされる内容の話だった。絶妙に生っぽい。
人物たちが吐露する台詞がイビツな棘のように心に刻まれる。
最初に思ったのが「フィルム?」って事だった。そのザラつい画像が、そこにあってそこに無いもののようで、第三者的な立ち位置を無条件に観客に与えてくれるような気がした。
作品が描いているのは、どこにでもある、誰にでも起こる物事の一部である。
理不尽な正論を振り翳す思春期の娘
娘を夫を愛してやまない母
システマチックな社会
そして、それらの暴風雨に打たれ続ける父。
なんでわざわざこんなモノを突きつけられなきゃいけないんだと、鑑賞中何度も思った。
それ程までに居心地が悪い。
明日は我が身を今、お金を払って体感させられてるようだった。
父に吹き付ける暴風雨は、どれもこれもどうしようもない事柄ばかりであった。
ストレスしかない。
ブチ切れて投げ出しても仕方がないと、男の俺は思う。
作中の彼も、耐えて苦しみ吐き出して、投げ出して…無防備でいられる家庭の中で、裸のまま槍で貫かれてるような感じだ。
ただ、それでも彼は踏み止まった。
そこに何を見いだしたのかは分からない。
人それぞれなのだと思う。
見終わった後の感想は、一緒に暮らし、時間を共有する事の難しさであり大切さであった。家族は家族に成長していくものだと思えた。
この作中には様々な形でイビツな何かが現れる。でもそのイビツな何かは、いずれイビツではない何かに変わっていくのだと教えてくれる。
そこに佇み、放り出さなければ。
地味な映画ではあったが、最後の父が娘の背中に寄せる手に温もりが溢れ、なんだかホッとする。
この作品の小憎たらしい所は、一件落着したようなところで母が「悲しみの果て」を乱暴に歌ってるとこだ。
また、この歌詞が抜群にハマってもいて…。
そのシーンだけで、妻も夫と同じくらいの重圧に、苦しみに耐え、発散していたのだ思える。
脚本の展開も、絶妙で…常に崖ップチを歩いているような感じだった。
言葉の選択をたった一つ間違えば、取り返しのつかない状況に容易に転ぶ危うさの中で進んでいく。
これは、俳優陣のキャラとそのキャスティングによるところも大きいが、技ありな配置であり展開だった。
監督と演者に、拍手喝采!
この作品を選んで良かった。