「この映画は本当凄い。」キセキ あの日のソビト まつこさんの映画レビュー(感想・評価)
この映画は本当凄い。
なんかもう嘘でしょってぐらい名作。過ぎる。(笑)
最初から最後まで目頭が異常に熱かった。
夢、青春、家族、兄弟、友達、現実、仕事とか、それぞれが時間の限り丁寧に描かれていて、脚本や演出やキャスト凄いなあと感心ばかりだった。というか感心の前に物語の惹きこまれ具合がやばかった。
こんな映画だとはつゆ知らず…甘く見ていたから本当土下座したい。
本当にあった話を映画化したものだから多少はドラマチックにしてる部分はあるんだろうなと思うけれど、この人が何故この行動に出たのか、何故こんな表情をしたのか、とひとつひとつの展開が、わざとではなくすんなり納得していける展開になっているから違和感無く惹きこまれる作品でした。私は映画特有の、「クライマックスで走る」という動きを見るといつも「映画だな〜映画って最後走るよな」と急に現実に戻される(別に悪いわけでは無い)けど、この映画に至っては「そりゃそうなるわ!」と納得せざるを得ない、その登場人物がその選択をしたのが痛い程伝わってくるように出来ていた。
一人一人の人物像も個性があってそこも魅力。特に小林薫演じる厳格な父親に対して、常にビビってる松坂桃李と菅田将暉演じる兄弟がリアルで良い。たまに笑える。自分はそこの家庭で育ったわけじゃないけど、あの親父さんなら確かに怖いしここまでビクビクする意味が分かる、とやたら共感。
自分たちの夢に向かっていく時に、家族や親の思いが邪魔になって「自分の人生だから自分で決めるんだ!」なんて意気込んで真っしぐら…でいこうとしても、やっぱり昔から子供は親の顔色伺ってしまうし、親の言う事が自分の生活の中での法律になったりするし、また、親が自分のとった行動で見せる一喜一憂がとても気になってしまう、んで喜んでくれた時や応援してくれた時は嬉しさもひとしお…。特に言葉に出して言うほどの事でも無い、人間の人生での当たり前な部分を忠実に見せてくれてた。そこも凄いです。
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夢に対しての姿勢とか、家族愛、兄弟愛、友情、全部複合的に観てる人達の心を熱くさせた作品。何かの映画でも書いたけど、映画が終わったあとの観客達の雰囲気が満場一致で胸がいっぱいになってるのが怖いぐらい伝わって来た。みんな「この作品は一体何なの?すご…」って空気が充満してた。大体の映画鑑賞後って賛否両論の空気がふわ〜って流れてるんだけど、圧倒されている空気が強かった。とても素敵な余韻だった。
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非の打ち所がない映画というわけじゃないけれど、胸が熱くなって心のほっこり具合も半端じゃない作品というのは自信もって言える。この映画を批判する人がいたとしたらこれから先のその人の人生しょうもないんじゃないかな…人としての大事な部分が欠除してないかな…とか思ってしまう。良い映画は賛否両論ハッキリ分かれるというから本来なら否定の感想も良いことなんだけどね…。
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また物理的な面でこの映画が良作にならざるを得なかった理由として、監督がある。兼重淳監督。私のような映画ミーハーは「誰じゃい」と思ってたけど、蓋を開けてみれば是枝裕和監督のいくつかの作品の助監督してた人だった。カエルの子はカエルじゃないけど、行定勲や西川美和みててもわかるように、面白い良作生み出す監督の助監督してた人って、高確率でその人も良作を生み出すんだな、って今回痛感した。この人が撮る映画なら今後も期待大だなと。
こないだの映画感想でも書いたけど、良い映画監督はつくる映画内に出てくる登場人物全員輝いているね。だからこのキセキという作品はキャストが代表作って呼べる作品に仕上がってる。なんならこの映画に出てくる菅田将暉は、去年(菅田が)出演した9本の映画の中のキャラクターを合わせても勝てる魅力が詰まってた。(作品でいえば一昨年NHKでやってた「ちゃんぽんたべたか」っていうドラマの時の菅田将暉と同じ魅力だった。そういえばあのドラマも今回みたいに実際にいる歌手のドキュメント作品だったけど)
菅田将暉以外のキャストも、それぞれの演技力とか抜きに、一人一人その人自体が元々持つイメージや人柄、空気感をうまい具合に使ってその役が出来あがっていて、素敵な作品に仕上げるひとつの手段だけど、変な言い方、こんなにも有効活用出来てるのも監督の才能なんだろうなと思った。分かりやすい例えで言えば「幕が上がる」のももクロメンバーを撮った本広監督みたい。
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この映画、去年「ちはやふる前編」を観た時と同じ感覚に陥った映画関係者は多いんじゃないかな。あの映画も、最初はアイドル的な要素のある映画だろう…となんとなしに予想してみたものの、映画として面白過ぎてむっちゃ感動してた映画関係者や映画マニアが多かったように思った。この「キセキ」という映画もきっと同じ。
こういう作品がきちんと評価されていって欲しいな。