「冒頭、印からの術」忍びの国 梅さんの映画レビュー(感想・評価)
冒頭、印からの術
忍者好きにより視聴。
しかし主演の出自や予告での不安通り、中身の薄さ、安っぽさ、演出のPOPさに落胆しての帰宅。
だがこの映画は変わっていた。不思議なまでに余韻が長く、しかも何かもやもやとする。
あとからあとから「実は面白かったのではないか」という疑問が来るのだ。
せっかくの数少ない忍者映画、それを確かめたくなって人生初の二度目の劇場視聴。
そこでようやく気付いた。
この映画は冒頭に結ばれる印を皮切りに、観る側を術にかけようと挑んでいる。
従来の時代劇の枠を取っ払おうとするその術に気付き、こちらもオープンに酔おうとした途端、この作品の印象はガラリと変わった。
最終評価としては、なんとも前衛的な快作である。
初回、頭が凝り固まっていた時は意味すら考えられなかったが
虎狼の輩は何故ここまで金に固執しているのか、その理由は無門の「わかってたまるか」という一言。これに尽きる。
幼い頃、金で買われた虎狼の輩にとって
金以上に大切な物がこの世にあってはならないからだ。
そんな物を認めてしまったら、金で売り払われた自分の存在が崩されてしまう。
だから彼らは金が全てだという信念に、自他の命を軽んじてでも頼っている。
そこに突如生まれた異端児、平兵衛。
こいつは弟の死で更に脱皮し、伊賀においては毒蛇のような思想を持った。そこから物語は動いていく。
そして一番間近でその毒を受けたのは、弟の仇である無門だ。
平兵衛が何を怒っているのかわからぬまま噛まれた彼は、やがて何かの存在を無視できなくなる。
金では補えない何か。
それを持てあました無門は戸惑い、初めて相手の遺体に情けをかけ、その平兵衛のクナイを使い吐き散らした。
十二家評定への怒りというよりも、認めてはならない物を持てあました……そんな無門の暴走だ。
切ないのは、無門の虎狼の輩がゆえの誤算。
まさかお国が……そもそも他人が金ではなく自分のために動くなど、想像すら出来なかったのだろう。
そしてこの物語を単なるエンタメにさせなかったのは映画のクライマックス。
観客である自分も一度は消化不良に思えた理由もそこにある。
無門の復讐の消失だ。
お国が殺され、全員を相手にこれでもかのアクションで復讐するラストなら
レビューの星ひとつの人数は減っただろうが、それではそこで完結してしまう。
しかしこの作品は死にゆくお国に一言「可哀想に」と言わせることを選んだ。
無門は平兵衛の毒により門の存在を知らされ、死にゆくお国の愛によってその門を開かれ、復讐よりも更なる向こうに子と手を繋ぎ歩いていく。
エンドロールに流れる曲。いかにもアイドル映画風ではあるが、タイトルが見事に代弁していた。
つなぐ、と書かれた画面を歩く二人の姿が何とも深い。
それを見送らされる観客は、虎狼の輩なのか、門の存在に気づかされたかで感想は変わるだろう。
川でのアクションは近年稀に見る重厚な接近戦、群衆アクションの軽快さも当然お薦めではあるが
秀逸なのは無門の雄叫びだ。
演技が上手い下手とは何か、主演の大野智を見ているとよくわからなくなってくる。
そもそも格好よく映ろうとしていないことに驚いた。
仮にも国民的アイドルだろうにこれでいいのかとも思うが
逆にこの人間がアイドルとして認知されてることに奇妙な安堵も覚えた。
それほどまでに「いい演技を見せてやる」という圧を感じさせない主演。
その彼の雄叫びは見事で、お国の愛を受け今まさに生まれたかのような赤ん坊の泣き声にも聞こえた。
初回視聴では、ポッと出てきて稼ぎのことばかり言う幽霊のような、物語を進めるために無門を振り回すだけに感じたお国。
しかし二度目はこのお国の印象も違う。
終始無門を思い、結婚したいと願い、そのために叱咤激励してくれる母性を感じられる。
その他配役も素晴らしく、伊勢谷に至っては過去最高に魅力的だ。
國村隼、鈴木亮平は勿論のこと、名も知らない脇役陣もはまっている。
信雄も若い次男坊当主らしく、キャスティングミスは見当たらない。
大見得をきる時代劇、アクション映画のラストは大立回りでなくては……と思っていてはもったいない。
せっかくならば監督と原作者の仕掛けた術に飛び込んで欲しい。
そうすれば無門の叫びで目覚めた後に、何を繋ぐかと問われるだろう。
レビュー感動しました。
「わかってたまるか」ですよね。
始めてみた時にボソッと言ったこのひとことにジンと来たの覚えてます。
私が言うのもなんですが、ありがとうございました。
素敵なレビューに全力で頷きつつ、まさに言葉に出来なかった感動を代弁していただいた想いです。ありがとうございます。私も繰り返して観ることで違うものが残る不思議な作品だと思います。こなレビューを読んだ後再び観たときは今度はどんな後味になるだろう、と楽しみが増えました。
とても素敵なレビューに泣きました!
私は大野智が好きで3回観に行ってそのたび、お国の最後のシーンで号泣してましたが、
こんなに心の想いを書くことはできません。。。
このレビューを読んでまた改めて観に行こうと思います。